企業論/組織論: ビジネス書のエッセンス(ビジネス書 書評ブログ)

2013年12月12日

誇りと生きがいを持ったスタッフが集う舞台をつくる!『奇跡の職場』(矢部輝夫著)



ニュースにもなった東京駅での東北新幹線や上越新幹線のお掃除。株式会社JR東日本テクノハートTESSEI(以下、テッセイ)が行なっている。わずか7分の間で北に向かうお客様を迎えるために素早い動きで綺麗に新幹線をお掃除する。そして、掃除が終わったら整列して一礼する。この様なテッセイのスタッフの姿に多くの方が感動した。

礼 に始まり、礼に終わる。これはテッセイがこだわっていることの一つである。そして、礼を行うのは駅のホームだけではない。車両全体を清掃する田端や小山のサービスセンターのような「お客様が見えないところ」でも行われている。テッセイの仕事は「おもてなし」「旅の思い出づくり」という哲学が現れた光景である。

テッセイも初めからこのようなスタイルで清掃を行なっていたわけではない。現在の姿に至るまでには紆余曲折があった。いわゆる3Kの職場であるお掃除会社が、なぜやる気にあふれ、ハーバード・ビジネススクールから「教材として取り上げさせてほしい」と言われるようになったのか?そこに至る道のりと、テッセイの経営の考え方を表した本が本書奇跡の職場 新幹線清掃チームの働く誇りである。

本書を読んで行く中で気がついたことがあった。それは、著者であるテッセイ・おもてなし創造部長の矢部輝夫さんの気持がマネジメントに現れ、現在のテッセイの姿と結びついていることである。

矢部さんがテッセイへの異動を言い渡されたのは平成17年7月1日。異動当初は「何でこんなところに」という気持ちが強かった。なぜなら、当時のテッセイは評判のよくない会社で会社であったからだ。しかし、入ってみて気がついたことは「現場スタッフの能力は高くまじめで、仕事にも真剣に取り組んでいた」(本書より P43より)ことだ。そして頑張りがきちんと評価されていないことも。会社のマネジメントが悪いのであれば変えようと取り組みはじめた。そのマネジメントスタイルは「地道にコツコツ…」である。

その一つが「エンジェルリポート」である。これは同社でコツコツと頑張っている人たちを紹介する仕組みだ。そして、これは「ほめる」を仕組み化した制度である。そしてそれを制度化した根底にはマネジャーとしての以下の考え方があると思う。

  ほめるということは、言い換えると1人ひとりの努力の成果をきちんと把握し、それを的確に評価することではないのか。それはマネジャーとしての根本的な役割であると思う。そうしたことをいい加減に考えないほうがいいと思う。(本書より P93〜P94)


これは一つの例に過ぎないが、本書に書かれているテッセイのマネジメントの根源は「みんなで力を合わせて誇りと生きがいを育てている」ところにある。それは本書に書かれている一人のスタッフの言葉にも表れている。

「私は、誇りを捨てて清掃員としてテッセイに入りました。でも今私はテッセイで新しい誇りを得ることができました」(本書より P193)


仕事に誇りと生きがいを持った人は輝いている。そしてその輝きが磁力となり、人を寄せ集める。「新幹線劇場」と呼ばれているのは、そんな輝きを持った人々が集っているからではなかろうか?

著者の温かさを感じるとともに、現場の声と歓喜の声が聞こえてくる本である。


【本書のポイント】

 礼に始まり、礼に終わる(本書より P29)

 『旅の思い出』これこそが私たちの商品だ!(本書より P53)

 私たちがご提供しているものは少し違って、それは掃除を通じた「旅の素晴らしさ」です。お客様に旅行の満足をお持ち帰りいただくことなのです(本書より P81)

「世間一般の一流の会社にはなれないかもしれない。戦略や戦術も二流、三流かもしれない。でも、その代わりに実行力では一流になろう」(本書より P161)

 テッセイで働いている人の多くは、紆余曲折を経てここにたどり着いている。ここに来るまでに、さまざまな状況のなかで打ちのめされ、誇りを失ってしまった人も少なくありません。
 でも、そんな人たちに生き生きと働いてもらうためには、誇りを取り戻してもらうことがとても重要なのです。そしてそのためには、認められることが欠かせません。仕事を通じて認められ、評価され、充実感が積み上げられていけば、やがてそれが誇りと生きがいにつながっていくからです。
 ただし組織内においては、たった1人の人間が「よし、誇りと生きがいを持つぞ」と意気込んでみたとしても、あまり意味がありません。それでは、周囲に煙たがられて終わるだけです。つまり言い方を変えれば、誇りと生きがいとは、1人で持つことはできない。みんなが力を合わせてこそ育まれるものだと思います。(本書より P192〜P193)


【関連書籍】



奇跡の職場 新幹線清掃チームの働く誇り

1)本書の内容
 
 プロローグ
 第1章 なぜ「3K」の仕事が奇跡の職場になったのか?
 第2章 成功の種は現場に隠れていた!
 第3章 現場を会社が強くバックアップする!
 第4章 すべてはリーダーで決まる
 第5章 会社は二流でも、実行だけは一流を
 第6章 誇り、生きがいが働く人を輝かせる
 エピローグ

2)本書から学んだこと
 ・成果をきちん把握し評価することで「ほめること」ができる!
 ・みんなで育てるからこそ、仕事に対する誇りと生きがいを実感できる!
 ・誇りと生きがいを持つことができた瞬間に、人生は幕を開く!



ブログランキングに参加しております。よろしかったらクリックをお願いいたします。
人気ブログランキングへ
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村
そして「よい記事!」と思ってくださった方は、下の【Twitterでつぶやく】【facebook いいね!】【はてなブックマーク】等のボタンのクリックをお願いいたします!
posted by まなたけ(@manatake_o) at 23:43 | Comment(0) | TrackBack(0) | 企業論/組織論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年06月21日

【マインドマップ付き】「ワオ!」と叫びたくなる驚きの企業!それがザッポス!『ザッポス体験』(ジョセフ・ミケーリ著)


究極の顧客サービス「ザッポス体験」 ―顧客も社員も幸せにする5つの法則
  • ジョゼフ・ミケーリ
  • 日経BP社
  • 1680円
Amazonで購入


究極の顧客サービス「ザッポス体験」 ―顧客も社員も幸せにする5つの法則を読んでみました。

そこには「本当にこんな企業があるの?」という、我々の常識では考えられない内容が書かれておりました。本書を読んだ方は、思わず「ワオ!」と叫びたくなったのではないでしょうか?

本書のご紹介に当たって、今回は、【本書のポイント】【感想】【マインドマップ】【関連書籍】の構成で書いていきたいと思います。


【本書のポイント】

本書のポイントを以下に記述します。


■ザッポス体験

ザッポスには「サービスを通じてワオ!を提供する」というコアバリューがあります。このコアバリューの実現のために、そして信頼を勝ち取るために、ザッポスは社員と顧客とベンダーに深く関わり、「愛」を表現します。
 ザッポスは社員と顧客が成長し、伸びていけるように気を配る。それが愛だ。だから顧客も社員も愛を返す。具体的にはリピーターになり、口コミで評判を広げてくれる。毎日入ってくる注文の75パーセントはリピート客によるものだ。だからザッポスはマーケティングや広告の費用を抑えて、ワオ!なサービスの提供に専念できる。
 活気あふれる社内文化を形成し、独自の価値観に従って行動し、サービスがそのまま忠誠心となって返ってくるようなビジネスを展開する。それがザッポスと他の善良な企業の違いだ。
 私はそれを「ザッポス体験」と呼んでいる。
(本書より)


本書は、以下に記載された「ザッポスのビジネス法則」を手がかりに、ザッポスの挑戦を記した内容となっております。

●ザッポスのビジネス法則
1.パーフェクト・フィットをめざせ
2.迅速で手間いらずのサービスを
3.パーソナルに踏み込め
4.STRETCH
5.勝つために遊ぶ


■パーフェクト・フィットをめざせ

ザッポスの採用はユニークです。なぜなら、ザッポスの採用基準は「ザッポスの文化に合うかどうか?」にあるからです。そのために、これでもか!というくらいにコアバリューを全面に打ち出し、応募者の中からザッポスの価値観に適合しそうな方の絞りこみを行います。そして、応募者の価値観や性格を見極めてふるい落とし、採用に至ります。

しかし、採用が決まったとしても、「本当にザッポスの一員になれるかどうか?」は1カ月に及ぶCLT(カスタマー・ロイヤルティ・チーム)での研修後に明らかになります。

そしてCLT研修後には?
担当部署に向かうか?ザッポスを去るか?を新人に決断を求めます。それも意外な方法で!

 ザッポスの新人が、CLT研修を無事に終了した。次はどうなる?この段階で、ザッポスは新人に決断を求める。相当額のお金(およそ4000ドル)を受けとってザッポスを去るか、それとも担当部署に向かうか。何かのまちがいではないかと思う読者のために、もう一度説明しよう。オンボーディング研修が終了した時点で、研修生は自分がザッポス文化に合うかどうかを判断するのである。もし合わないと思ったら、ザッポスを離れてよそに活路を見いだすための支度金が支給される。
(本書より)


このように「パーフェクト・フィット」のために、徹底して行うのです。


■迅速で手間いらずのサービスを

ザッポスは顧客やユーザーが快適に、しかも支障なくサービスを利用できるよう徹底的に追求しています。

 物流面や技術的な問題が多少あっても、顧客のニーズを突きとめて、それに対応する。顧客がうちのウェブサイトを開いてから、注文を完了させるまでの過程をきっちり押さえて、すべてが快適な経験になるよう配慮しなくちゃならないんだ。
(本書より)


このため、ザッポスのユーザー・エクスペリエンス(UX)チームは試行錯誤を繰りかえしながらUXの向上を目指して「サービス・ベロシティ(速度)」を徹底しています。

 ザッポスは光速で靴を届けてくれる・・・・サーバーは高速だし、商品の写真はわかりやすく、チェックアウトも簡単だ。確認事項もコミュニケーションもちゃんとしている―注文が入れば、その商品が発送され、確実に手元に届く。そこで試しに、ザッポスとライバル会社で似たような靴を同じ日に注文してみた。3日後、ザッポスで注文した靴が届いた。もうひとつのほうは、3週間たったいまも届いていない。
(本書より)


上記の文は、ザッポスのサービス・ベロシティが顧客の心をつかんでいることを示しています。


■パーソナルに踏み込め

 最悪なサービスと見事なサービスを分けるのは、損得勘定抜きにしたほんのちょっとの気づかいだ。取引よりも交流を大切にする企業には自然と人が集まってくる。
(本書より)


ザッポスは「顧客との心のつながり」を大切にしています。そのひとつの例として、「カスタマー・サービスで一人の顧客と7〜8時間話し続けたこと」があります。対応した彼女は言います。「良いサービスを提供していたら、売上はついてくると思います」(本書より)と!

ちょっとした心づかいが顧客にとって「ワオ!」となり、その積み重ねが顧客との「心のつながり」を形成していくのです。

 伝説となる企業は偶然で生まれるものではない。それは公正な取引を行ない、顧客に好ましい感情をもってもらうことに、トップが情熱を傾けた結果である。その情熱を社員も共有し、顧客の立場になって親身にものを考える。こうして満足のいく取引が実行され、売る側と買う側の気持ちが通じると、カスタマー・エクスペリエンスの物語は自然と外に流れていく。そうやって伝説が育っていくのだ。
(本書より



■STRETCH

「成功するはずがない」という冷たい視線のなか、ザッポスは急速な進化を遂げました。その要因のひとつとして「知識を追求し、従来のやり方に甘んじない姿勢」(本書より)があります。

そのために、ザッポスのパイプライン・チームは「コアバリューを実践しながら成長できる人材を開発」(本書より)し、社員を後押ししています。

常に背伸び(STRETCH)をし、今より更に挑戦していこうとしているのがザッポスなのです。


■勝つために遊ぶ

ザッポスは積極的に「楽しむ」企業文化を積極的に構築してまいりました。「楽しむ」ことは、創造性や生産性を向上させ、同僚との良好な関係は情報共有をしやすくし、正しい判断を行いやすくします。

トップが「楽しむ」ことの重要性を理解しているからこそ、「遊びと仕事を融合させて社員のやる気を高め、結果として組織のまとまりを強くしている」(本書より)のです。

 ザッポスは独自の企業文化を発揮することで職場のストレスを減らし、生産性を高め、目標を上回る実績をあげている。と同時に、顧客と社員の心もがっちりつかんで離さない。そんな企業文化を織りあげるのに要する費用は、マーケティングや広告費に比べれば微々たるものだ。けれども口コミには絶大な威力がある。社員を尊重し、思いやるトップの姿勢、遊びごころを大切にする社風は、確かな信頼関係をはぐくむ。それは広告費などでは換算できない。楽しさの配当に終わりはないのである。
(本書より)



【感想】

ザッポスというと「インターネットで靴を販売している。創業10年で年間10億ドルに成長!しかも顧客満足度の高いサービスにより、リピーターが多い」というイメージがあります。

本書は、ザッポスを支えた成功法則を自社に展開できるように「ザッポスのビジネス法則」として5つの法則にまとめた内容となっております。

この5つのビジネス法則を見ていくと、「自社のコアバリューを実現するために徹底的に実践している」ということがわかります。中には「ここまでするの?」という内容もあります。例えば以下の内容です。

 ふつうのコールセンターでは、お客さまとの通話は1分間とか90秒に制限されています。けれどもザッポスではお客さまとつながるために、どれだけ時間をかけてもいいんです。お客さまにワオ!と言わせるための権限も与えられています。お客さまは、私たちが親身になって対応することをよくご存じなので、インターネットにアクセスできない人から、いまどんな映画をやっているかたずねられることもあります。そんなときは私たちがインターネットで調べてお答えするのです。また、ごくたまにお客さまがご希望する品が在庫切れだったりすると、他社の在庫を調べて、そちらをご紹介するんです。
(本書より)


映画を問い合わせられたときにインターネットで調べてご紹介したり、在庫切れのときに他社をご紹介する会社は、ごく稀でしょう。それを平気でやってのけることができるのは、社員全員に共通の価値観を持っているからであり、「これはお客さまのためになるからやってもよい」ということを社員全員が分かっているからこそできるのでしょう。(でないと「他社を紹介する」なんてできないですよね?)

このように、ザッポスの企業文化には一般の企業ではちょっと考えられないような出来事があります。意外だからこそ顧客が「ワオ!」と思わず叫んでしまうのでしょう。

顧客が熱狂するネット靴店 ザッポス伝説―アマゾンを震撼させたサービスはいかに生まれたか』(トニー・シェイ著)が発売されて以来、「一風変わった企業文化を持つ企業」として注目を集めているザッポス。本書は、「ザッポスを体験」しながらザッポスの企業文化を知ることができる本だと思います。


※2012-08-18追記
【マインドマップ】

image.png
拡大表示は以下のリンクをクリック!
なお、スマホでは綺麗に表示できないかもしれませんが、ご勘弁を(^^;)
ザッポス体験.html

そして、スマホの方は以下のリンクをクリック!マインドマップの内容を階層構造で表しました。
ザッポス体験.mm.html

※追記ここまで


【関連書籍】


顧客が熱狂するネット靴店 ザッポス伝説―アマゾンを震撼させたサービスはいかに生まれたか
  • トニー・シェイ
  • ダイヤモンド社
  • 1680円
Amazonで購入



学習する組織――システム思考で未来を創造する
  • ピーターMセンゲ_::_PeterM.Senge
  • 英治出版
  • 3675円
Amazonで購入


究極の顧客サービス「ザッポス体験」 ―顧客も社員も幸せにする5つの法則

1)本書の内容
 第1部 ザッポスの魅力
  第1章 ザッポス? それ何?
 第II部 ザッポスのビジネス法則1―パーフェクト・フィットをめざせ
  第2章 すべては企業文化に帰結する
  第3章 文化にエネルギーを注ぎこむ
  第III部 ザッポスのビジネス法則2―迅速で手間いらずのサービスを
  第4章 手間を減らせば顧客は増える
  第5章 スピード、知識、リカバリー、サプライズ
 第IV部 ザッポスのビジネス法則3―パーソナルに踏みこめ
  第6章 購入は歩く財布じゃない
  第7章 あらゆるレベルで結びつく
 第V部 ザッポスのビジネス法則4―STRETCH
  第8章 ザッポス大学
  第9章 シューズを超えて
 第VI部 ザッポスのビジネス法則5―勝つために遊ぶ
  第10章 よく遊べ
  第11章 R.O.F.L

2)本書から学んだこと
 ・すべては企業文化に帰結する!
 ・「価値観の共有」のために、「大学」のような学習の場を!
 ・勝つために遊ぶ!



ブログランキングに参加しております。よろしかったらクリックをお願いいたします。
人気ブログランキングへ
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村
そして「よい記事!」と思ってくださった方は、下の【Twitterでつぶやく】【facebook いいね!】等のボタンのクリックをお願いいたします!
posted by まなたけ(@manatake_o) at 00:15 | Comment(0) | TrackBack(0) | 企業論/組織論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年06月09日

【マインドマップ付き】現代にも生きている「小倉DNA」を表した歴史的名著!『小倉昌男 経営学』(小倉昌男著)


小倉昌男 経営学
  • 小倉昌男
  • 日経BP社
  • 1470円
Amazonで購入


小倉昌男 経営学を読んでみました。

宅急便事業を始め、「名経営者」と呼ばれた小倉昌男氏の初めての自著である本書。実は、小倉氏の本を読んだのは初めてでした。今から10年以上も前の本なのですが、その内容は色あせることなく、現代を生きる我々に大きな示唆を示してくれるものと思います。

本書のご紹介に当たって、今回は、【本書のポイント】【感想】【マインドマップ】【関連書籍】の構成で書いていきたいと思います。


【本書のポイント】

本書のポイントを以下に記述します。


■宅急便のベースとなる気づき

小倉昌男氏が宅急便を始めるにあたり、頭の中にあったのは「小口の荷物の方が圧倒的に稼げる」という気付きからでした。

昭和34年、取締役営業部長に就任した小倉氏は営業利益向上のため、「手間がかかり、コストが割高だと思われた小口の貨物を断るよう営業の現場を指導した」(本書より)のです。しかし、「それが大きな過ちであるとは、このときは想像もつかなかった」(本書より)のでした。

その過ちに気づいたのは「西濃運輸をはじめとする関西勢は高い利益率を誇っているのに、ヤマトは利益改善に苦しんでいるのか?」という疑問から。考えているうちに、訪れた「小口の荷物の方が圧倒的に稼げる」という事実に気づいたのです。そして「ライバルはどうなのか?」という思いから、ライバルの様子を観察して事実を確認したのでした。

 私は大阪を時に、大手ライバルの支店をこっそりと外から覗いてみた。
(中略)
 私の観察では、営業利益率が七%以上の路線会社の荷筋は一口5個以下の貨物が多かった。5%以上の会社は大体10個以下であった。ヤマトは50個前後が多い。これでは利益率が低いも当たり前である。こうしてみると、小口貨物を断って大口貨物に重点を置いた営業戦略はなんと間違っていたことか。他社は大口貨物も運んでいたが、その陰で小口貨物を大量に運んでいたのが全然見えなかった。
 ちなみに当時、東京−大阪間の一個口の運賃は七百円であった。大型トラックの積載量の標準は10トン。ダンボール1個の重量が平均24キログラムとすると、一台に400個強積めるはずである。一口50個の荷物を満載すれば、先ほどの計算では一個当たりの運賃は200円だから、その四百倍として1台当たりの収入は8万円になる。それが一個口の荷物を満載すれば、700円×400個で、なんと収入は28万円になるではないか。
 一個口の荷物を集めるにはコストがかかる。けれども、これだけ運賃を稼げるのならば、商売として十分魅力がある−。実は、宅急便を始めようと考えた背景には、このときの計算が私の頭の中にあったのである。
(本書より)



■「全員経営」のベースとなる講演

ヤマト運輸には「ヤマトは我なり」という社訓があります。これは「全員経営」を表した社訓です。小倉氏が「全員経営」の概念を知ったのは、上智大学社会経済研究所の篠田雄次郎教授の講演を聴いたことがキッカケです。講演の要旨は以下の通りです。

 −共同体経営=パートナーシップ経営とは、経営者と労働者が対等に力を出し合って企業活動をやり、その成果を両者で分配するというものだが、いわゆる西ドイツ(当時)でいわれている労働者の経営参加とは異なる。共同体経営では、共に知り、共に働くという姿勢が中心である。従業員が自発性を高め、自己管理をしていくことに特色がある。そのためには、経済のお動き、経営の状態、人事など経営に必要な情報を、同時に従業員にも提供し、同じ目的意識を持たせることが必要である。成果配分は、みんなで考え、その決定は経営者に任せる。問題は質であり量ではない。−
(本書より)


この考え方はピラミッド型の組織を崩し、「セールスドライバー」と呼ぶ第一線で働くドライバーたちに「やる気」を引き出し、社員全員で情報共有を行う「小倉流経営の根幹」となっていきます。


■個人宅配市場への志向

ヤマト運輸が個人宅配市場へアプローチをし始めたのは以下の理由があったからです。

 1)通運部門、百貨店部門、そして基幹であるトラック運送の業績悪化
 2)個人向け市場にて事業を展開している民間業者が皆無


「打開策を打ち出さなければヤマト運輸は企業としての存在価値を失ってしまう」という危機感と、「個人向け市場は有望な市場である」という思いから、ヤマト運輸は個人向け市場に軸足を移す決意をするのでした。そのキッカケを与えたのは牛丼の吉野家ことが書かれていた新聞記事でした。

 なんでも運べる良いトラック会社になるという方向は、間違っているのではないか。それは抽象的な理屈にすぎないのではないだろうか。だいたいの話、具体的に考えると、本当にそんな会社になれるのだろうか。それよりも吉野家のように思い切ってメニューを絞り、個人の小荷物しか扱わない会社、むしろ扱えない会社になったほうが良いのではないだろうか。広く何でもやれる会社と、狭くひとつのことしかやれない会社の、どちらが可能性があるだろうか。
 吉野家の場合は(牛丼ひとすじ)という新しい事業を開発し、チェーンを展開して繁盛している。一方、ヤマト運輸の得意とする分野は、昔から小さな荷物である。消費者に近い小規模企業や家庭から出る荷物である。ならば、思いきって対象とする市場を変え、メニューを絞って新しい業態を開発したら、道が開けるのではないだろうか−。そのように真剣に考え始めたのは、昭和49年(1974)年ごろであった。
(本書より)



■サービスが先、利益が後

「サービスを向上させようとするとコストがあがる!」。サービスとコストはトレードオフの関係にあります。新しい事業を始めるにあたり「どれくらいコストがかかるのか?そして利益が出るのか?」というのは経営者にとっては気になる事柄です。

しかし、小倉昌男氏は宅急便を始めた業務会議で「これからは収支のことは一切言わない。その代わりサービスのことは厳しく追及する」(本書より)と強調し、「サービスが先、利益は後」を標語に事業を推し進めたのです。

小倉氏が唱える「サービスが先、利益は後」の真意は本書に以下のように書かれております。

 私が唱える「サービスが先、利益が後」という言葉は、利益はいらないと言っているのではない。先に利益のことを考えることをやめ、まず良いサービスを提供することに懸命の努力をすれば、結果として利益は必ずついてくる。それがこの言葉の真意である。
 利益のことばかり考えていては、サービスはほどほどでよいと思うようになり、サービスの差別化などはできない。となると、収入も増えない。よって利益はいつまでたっても出ない。こんな悪循環を招くだけである。
 つまり、どちらを先に考えるかで、結果は良くも悪くもなる。経営には常にトレードオフの問題がある。それに対する正しい対応を考えるのが、経営者の大きな責任であると思う。
(本書より)



■経営リーダー10の条件

小倉昌男氏は経営者に必要な資質を以下のように述べております。

 私は、経営者には「論理的思考」と「高い倫理観」が不可欠だと考えている。
 経営は論理の積み重ねである。したがって、論理的思考ができない人に、経営者となる資格はない。
 また、経営者は自立の精神を持たねばならない。これまで護送船団を組んだ行政や政治家の力に守られてよしとする経営者がどれほど多かったことか。しかし今、社会はボーダレス化が進んでおり、どこに競争相手がいるかわからない。常に論理的に考えて、攻める姿勢が必要なのだ。
 併せて経営者には高い倫理観を持ってほしい。社員は経営者を常に見ている。トップが自らの態度で示してこそ企業全体の倫理観も高まると、私は信じている。
(本書より)


そして、小倉氏は「経営リーダーの10の条件」として、以下の10カ条をあげております。

 1.論理的思考
 2.時代の風を読む
 3.戦略的思考
 4.攻めの経営
 5.行政に頼らぬ自立の精神
 6.政治家に頼るな、自助努力あるのみ
 7.マスコミとの良い関係
 8.明るい性格
 9.身銭を切ること
 10.高い倫理観



【感想】

感想を述べる前に、先日読んだ(株)ディスカヴァー・トゥエンティワン社長・干場弓子さんの面白い記事があったので、まずはそちらを紹介したいと思います。

 干場さんは、売れる本の条件を二つあげてくれた。
 WILL TO SELL  売ろうとする意志の強さ
 ABILITY TO DISCOVER  (新しい価値を)発見する力


(中略)

では、DISCOVER(発見)に必要な要素は何か。
干場さんは、アインシュタインが特殊相対性理論の帰結として行き着いた質量とエネルギーの等価性計算式をつかって、自らの考えを説明してくれた。

e=mc2

「C」は、「collect」=知識の引き出し、と「combine」=思いがけない組み合わせ、を意味している。
知識・情報は多い方がいい。しかし、ただ多いだけではなく、思わぬ組み合わせが必要である。シュンペーターの言う「イノベーション」であろう。

M」には、多元的な意味が込められている。

目標・目的、問題意識の「M」 
感動で人を動かMOVINGの「M」
マーケティングの「M」
そして、何よりMISSIONの「M」


社会を変えようという強い意志が、人の心を動かす原動力になる。
自己の最善を尽くそうという思いの強さが、目標や問題意識を鮮明にしてくれる。
自らの使命を自覚することで、創意工夫やイマジネーションが生まれる。

あれやこれやと考えを巡らし、まずはやってみようと行動することで「運」に巡り会う確率は高まる。 
そして「運」がDISCOVER(発見)の扉を開いてくれる。

慶應MCC「夕学五十講」楽屋blog『ヒットの方程式は「e=mc2」 干場弓子さん』より)


本書を読むと、小倉昌男氏の経営はまさに「e=mc2ではないか?」と思いました。

宅急便事業のベースとなった考え方や経営理念に基づく考え方を見ると、「C」や「M」に結び付く要素が多いことに気づきます。

例えば「全員経営」。【本書のポイント】でも書いた通り、「全員経営」のヒントとなったのは上智大学社会経済研究所の篠田雄次郎教授の講演!これが「collect」となり、「外に一人で出かけ、集配するドライバーに自発的、自主的に行動してほしい」との思いと「combine」し、「ヤマトは我なり」という社訓となって表れました。

また、宅急便事業のキッカケも、元を正せば「関西勢は高い利益率を誇っているのに、ヤマトは利益改善に苦しんでいるのか?」という問題意識の「M」から。この問題意識が「小口荷物は稼げる」ということに気づき、そしてその気づきが宅急便に「combine」したのです。

この宅急便事業。当時は運送業界では「イノベーション」とも言えるべき出来事でした。なぜなら「個人宅配は、いつどの家からどんなかたちの荷物をどこに運ぶのか決まっていないため、集配効率が極めて悪い」(本書より)ため事業にならないと当時の運送業界の常識だったからです。

しかし小倉氏はこの常識をあえて疑い、どうすれば効率よく集配作業ができるのかを考えたのでした。「郵便局の牙城である個人宅配市場にいかに切り込むか−」・・・・そこには小倉氏の「使命感」とも言うべき強い意志があったと感じます。MISSIONの「M」です。その「強い使命感」から、効率よく集配するための「ハブ・アンド・スポーク型のネットワーク」による集配・運送方法、「ゴルフ宅急便」や「クール宅急便」などの新商品の開発など、宅急便事業に関する創意工夫やイマジネーションが次々と生まれ、「DISCOVER(発見)の扉を開いてくれた」のだと思います。

その精神は小倉氏が亡くなった今もヤマト運輸には引き継がれています。その代表的なのは、東日本大震災のときにセールスドライバーたちが立ちあがって無償で自衛隊の輸送の手伝いをしたことから始まった「救援物資輸送協力隊」です。

この「救援物資輸送協力隊」ですが、被災したセールスドライバーたちが連絡が断たれた状態だったこともあり会社の指示を仰がずに自分たちの意思で行動し、輸送の手伝いをしたことがキッカケでした。後で会社が承認して正式な組織として発足したものです。「セールスドライバーは優秀なフォワードたれ」と小倉氏は本書に書いておりますが、その言葉を体現した行動だったと思います。

10年以上も前の本なのですが、不透明な時代である現代においても参考になる内容が書かれている本書。後世に残る歴史的名著であると言えます。


※2012-06-16追記
【マインドマップ】

image.png
拡大表示は以下のリンクをクリック!
なお、スマホでは綺麗に表示できないかもしれませんが、ご勘弁を(^^;)
小倉昌男 経営学.html

そして、スマホの方は以下のリンクをクリック!マインドマップの内容を階層構造で表しました。
小倉昌男 経営学.mm.html

※追記ここまで


【関連書籍】


経営はロマンだ! 私の履歴書・小倉昌男
  • 小倉昌男
  • 日本経済新聞社
  • 630円
Amazonで購入


小倉昌男 経営学

1)本書の内容
 プロローグ ―― 三越との訣別、そして宅急便へ
 第1部 牛丼とマンハッタン ―― 宅急便前史
  第1章 宅急便前史
  第2章 私の学習時代
  第3章 市場の転換 ―― 商業貨物から個人宅配へ
  第4章 個人宅配市場へのアプローチ

 第2部 サービスは市場を創造する ―― 宅急便の経営学
  第5章 宅急便の開発
  第6章 サービスの差別化
  第7章 サービスとコストの問題
  第8章 ダントツ三ヵ年計画、そして行政との闘い
  第9章   全員経営
  第10章 労働組合を経営に生かす
  第11章 業態化
  第12章 新商品の開発
  第13章 財務体質の強化

 第3部 私の経営哲学
  第14章 組織の活性化
  第15章 経営リーダー10の条件

2)本書から学んだこと
 ・「e=mc2」が「発見」につながる!
 ・自らの「ミッション」に焦点を合わせ、考え、行動することが大事!
 ・経営者には「論理的思考」と「高い倫理観」が必要!



ブログランキングに参加しております。よろしかったらクリックをお願いいたします。
人気ブログランキングへ
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村
そして「よい記事!」と思ってくださった方は、下の【Twitterでつぶやく】【facebook いいね!】等のボタンのクリックをお願いいたします!
posted by まなたけ(@manatake_o) at 17:35 | Comment(0) | TrackBack(0) | 企業論/組織論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。