マーケティング: ビジネス書のエッセンス(ビジネス書 書評ブログ)

2013年11月30日

マーケットの創造に突き進む「独自のこだわり」を持った経営者!『レッドブルはなぜ世界で52億本も売れるのか』(ヴォルフガング・ヒュアヴェーガー著)



お店や自動販売機などでよく見かけるレッドブル。赤い雄牛と天使の翼のロゴを施したこの飲料は、創業者のディートリッヒ・マテシッツ氏が大正製薬の「リポビタンD」にヒントを得てタイのエナジードリンクをベースに考案した商品だ。世界165カ国で約52億本も販売されているこのドリンクは、エナジードリンクにおける世界シェアの約70%を占めている。

しかし、これだけ世界規模に展開している企業でありながらも、その企業の実像はあまり知られていない。よく言われているのは「マーケティングが画期的」ということだけである。アルプスの麓に本社を構えるこのオーストリアの企業の、そしてディートリッヒ・マテシッツ氏の実像に迫った本が本書レッドブルはなぜ世界で52億本も売れるのかである。

それにしても意外なことばかり書かれていた、エピソード満載の楽しい本である。

最初に興味をひいたのは、マテシッツ氏がエナジードリンク産業に飛び込ませたキッカケである。

「キッカケはリポビタンD」と先に書いたが、これは「リポビタンDという製薬に惚れこんだから」という意味ではない。当時ユニリーバに勤めていたマテシッツ氏は、『ニューズウィーク』誌に書かれていた一つの記事に興味を持った。それは日本の高額納税者リストに関する記事である。1位に掲載されていたのがソニーやトヨタといったグローバル企業の経営者ではなく、大正製薬という彼が聞いたことのない企業の経営者であった。そして、リポビタンDというエナジードリンクで高額納税者になれることに感銘を受けていた。経済的に、そして時間の自由を手に入れたい彼にとって、この記事は大いに刺激になったに違いない。

もちろん、日本でお馴染みの「リポビタンD」がキッカケというのも我々日本人にとっては意外な気もするが、実は私が興味を持ったのは何気ない記事からヒントを得て市場を観察するマテシッツ氏の嗅覚である。普通であれば「へえ?」で終わってしまうものだが、そこに「巨大な金儲けのチャンスがある」と思ったところに人並み以上の嗅覚の持ち主と感じた。そして、その嗅覚はレッドブルという企業の独自性を発揮しているように思う。

レッドブルの特徴は「マーケティングと販売に特化した会社」ということだ。マーケティング志向の会社は数多く存在する。だが、レッドブルの場合は徹底度が違う。売上の3分の1を広告とブランド育成にかける。これだけの費用を広告とブランド育成にかける企業は他にはあるまい。「レッドブルのための市場は存在しない。我々がこれから創造するのだ」(本書より P22)という言葉に象徴するかのごとく、市場を創造するために巨額の費用を費やしてきた。そして、レッドブルが重要視していることが「体験を売る」ということである。このため、イベントは代理店に丸投げせず、全て自社で行う。それは販売に携わる社員よりもイベントに従事している社員の方が多いことからもレッドブルの姿勢がうかがえる。「すべてはマーケティング」という言葉にも代表されるように、消費者の関心と繋がりを保つために命がけで行ってきたことだ。なぜ、そこまでしてマーケティングにお金をかけるのか?それは「ブランド商品にとって最も危険なのは関心をもたれないことだ」(本書より P36)という言葉からも推しはかることができるであろう。

一般的には「マーケティングに巨額のお金を費やす」と書くと派手なイメージを持たれるが、「銀行にだけは借金するな」(本書より P76)という言葉に代表されるように、経営姿勢はむしろ堅実といってよい。また、スポーツ産業にも進出はしているものの、長期的に育てるというスタンスで一貫している。会社を上場させないという姿勢にも、マテシッツ氏のスタンスがよく表れている。アメリカの創業者は自らが創業した会社を上場させることで創業者利益を得る傾向が強いが、マテシッツ氏にはそのような考えは全くない。株も売却する気もない。そして、「セレブとのパーティーは最も意味のない時間つぶし」(本書より P276)と言い切り、「男と男の握手には何よりの価値を持っている」(本書より P276)というこだわりを持つ考え方。そういう意味では「なりふり構わず」ビジネスのために何でも行うアメリカ人の経営者とは違った気質を持っている。

マーケットを創造するためなら伝統を壊すこともいとわない姿勢、しかし経営に対しては保守的とも思える姿勢で臨む。同一人物とは思えないマテリッツ氏のギャップの表れを読みとることができるのが面白い。スタートアップの本というとシリコンバレーを連想しがちだが、ヨーロッパ人特有の伝統的なこだわりを持つ考えが表れたスタートアップの本というのもシリコンバレーとは違った味わいがあって面白く思う。


【本書のポイント】

 「レッドブルのための市場は存在しない。我々がこれから創造するのだ」(本書より P22)

 「ブランド商品にとって最も危険なのは関心を持たれないことだ」(本書より P36)

 「銀行にだけは借金するな」(本書より P76)

 「私たちはマーケティングのプロです。潜在能力があるにもかかわらずこれまで日の目を見ることのなかったブランドを、眠りから覚ましてやりたいのです。私たちの強みは問題解決能力です。すでに確立しているものの管理ではありません」(本書より P79)

 「伝統的な価値をすべて疑う必要はありません。そのなかには人生にとって必要なものもたくさんありますから」(本書より P249)

 「互いに競い合い、だまし合うことがビジネスだ、とは考えていません。努力と誠実さによっても成功を収めることができるのです」(本書より P250)


【関連書籍】



レッドブルはなぜ世界で52億本も売れるのか

1)本書の内容
 
 序章 レッドブルとは何者か?
 PARTI 52億本への道
 PARTII スポーツ・マーケティング
 PARTIII レッドブル帝国の正体
 PARTIV 創業者の横顔
 終章 ブルのこれから


2)本書から学んだこと
 ・市場は創造するためにある!
 ・最も危険なのは関心を持たれないこと!
 ・努力と誠実さによっても成功を収めることができる!



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2013年11月04日

物語と解説で書かれたマーケティングのエッセンスが詰まった本!『ウサギくんと少年ルッコラのマーケティングの物語』(小川亮著)



本書『ウサギくんと少年ルッコラのマーケティングの物語』はマーケティングに関する以下の項目を各章で取り上げ、そして各章では物語と解説で構成されている本である。本書で取り上げているマーケティングの項目とは以下の通り。

・コンセプト
・顧客満足
・商品
・価格
・流通
・広告
・競争戦略
・事業戦略
・サービス
・イノベーション


これらの項目はそれぞれ単体でも一冊の本が書けるほど奥深い内容だ。限られたページ数ではこれらの「エッセンス」をいかに抽出し、コンパクトがまとめるかが重要となる。本書に書かれている内容は、その「エッセンス」が非常に濃く、かつ分かりやすく書かれているのだ。

まず、これらのテーマを分かりやすくイメージさせるために、各章の最初に「ルッコラとウサギくんの物語」がある。ルッコラは「お母さんを楽にさせたい」と思っている発明が得意な少年。ウサギくんは月からやってきた、記憶喪失の欲望追求型ロボットである。ルッコラとウサギくんの物語は、自分達の発明品を多くの人に売ろうとしていく中で、先に書いたテーマに従って、「モノを売る上で考えないといけないこと、大事なこと」を示唆できるように書かれている。例えば、顧客満足の話では以下のように。

 そうやってルッコラの最初の発明品『ハンドくん』が完成した。ハンドくんは家の中にあるもの、本やリモコンやドライバーを所定の場所から持ってきてくれるロボットだ。
 「ハンドくんに欲しいものを言えば、何でもとってきてくれるのです。」
 ハンドくんは言葉を理解し、人と物を認識し、部屋の様子を記憶する、ルッコラの技術の結晶だった。ルッコラは自分の仕事に心から満足していた。
 ところが、実際に使ってみるとトラブルが発生した。ルッコラがリモコンをお願いすると、ハンドくんはグルグルと回りだしてしまった。リモコンが決められた場所に置かれていないことが原因だった。ハンドくんはグルグルとその場を回りつづけている。
 「リモコンはどこ?」
 ルッコラはハンドくんを助けるために、慌てながら部屋中を探し回った。早く!テレビの横にリモコンを置いてあげないと!
(中略)
 「ルッコラは『物を持ってきてくれる』道具を作ったんだね。」
 ルッコラはうなずいた。
 「じゃあ物を持ってきてもらいたい人が一番必要なことは何かな?」
 簡単なようで難しい。
 「本当に必要なことは、『自分が動かずに済むこと』なんじゃないかな。だからルッコラが動き回ったんじゃ、本末転倒だよ。ちなみにリモコンはここさ。」
 ウサギくんはちゃぶ台の裏に貼りつけてあったリモコンを取り出した。
 「物を作る人は作ること自体が目的になっちゃうから、使う人にとって何が必要かを見失うことが多いんだ。そしてルッコラもそうだったように、使う人自身も自分が何を必要かわかっていない。いやいや、欲ってものはホントに奥深いなあ。」
(本書より P40〜P45)


そして、先の物語をより具体的に解説した内容が次に来る。先にあげた顧客満足の話では、以下の解説が冒頭に書かれている。

1.顧客満足
 商品を開発し販売していくには、お客さんに満足してもらうことが何より大切です。
 お客さんが商品やサービスに大変喜んでくれ、その商品やサービスをまた使いたいと思ってくれることを「顧客満足」といいます。
(中略)
 なぜ、商品を開発・販売するうえで顧客満足が大切なのでしょうか?
 ルッコラくんのように好きなものを楽しく開発して、それをそのまま売るのではいけないのでしょうか?
 商品開発は、様々なきっかけからはじまります。
 「会社が新しい技術を発明したから」「研究者の『つくりたい』という思いから」、あるいは「ライバル会社が新商品を開発したため、それに対抗する商品を作る必要があるから」、などなど・・・。
 しかし、最終的には作り手の思いだけではいけません。「顧客満足」を満たす商品を作ることが大切なのです。
 なぜか?企業には継続性がなければならないからです。そのためにはできるだけ、失敗を避ける必要があります。単に好きなものを作っていると「失敗する可能性が高い」のです。
 この失敗を避ける方法の1つとして、顧客満足を目指すのです。
(本書より P48〜P49)


物語で商品を開発し販売していく上で大切なことを示唆し、そして解説でより具体的に「顧客満足とは何か?」について書かれている。その2つをセットで読むことによって読者に大事なことを印象付ける。このような編集の意図が読みとれる。
しかも非常に重要な要素を分かりやすく書いているので頭に残る!「マーケティングのエッセンスを勉強したい!」と思っている方には、そして実務をしている方にとっても、とても有益な本ではないかと思う。

それにしても、マーケティングとは奥が深い!!


【関連書籍】



ウサギくんと少年ルッコラのマーケティングの物語 50年後も変わらない、売れるモノをつくる10の基本

1)本書の内容
 
 第1章 こんなにすごいモノでも売れないよ?コンセプトの話
 第2章 ルッコラ、才能を無駄づかい?顧客満足の話
 第3章 ウサギくんの知らない価値?商品の話
 第4章 キーパーくん、いくらで売れるかな??価格の話
 第5章 キレイなお姉さんに任せてみよう?流通の話
 第6章 王様が教えてくれたこと?広告の話
 第7章 対決!キーパーくんのそっくりさん!?競争戦略の話
 第8章 ルッコラ、倉庫へいく?事業戦略の話
 第9章 ウサギくん、おうちに帰る?サービスの話
 最終章 50年後‐そして伝説へ?イノベーションの話

2)本書から学んだこと
 ・商品を開発・販売するために考える要素はたくさんある!
 ・マーケティングとは奥が深い!



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2013年08月13日

楽しみながら「小さなお店」のためのマーケティング手法を学べる本!『なぜ小さなコスメ店が大型ドラッグストアに逆襲できたのか?』(中沢敦著)


 小さなものが大きなものに逆襲するとき、必要なことはたった一つだけだ。

バイパス沿いには中央資本のショッピングモールと大型チェーンストア。
小さな駅前には個人経営店の商店街がシャッターを閉ざしている。
97%以上の日本人が「この風景」のなかで生きているとも言われる。

「最新のプロモーション?立派なマーケティング理論?うちみたいな店じゃ使えないよ」
「そもそも人口が減っているんだ」
「スマートフォンの使い方なんて知らない人ばかり」
「大型モールで買い物したほうが便利でしょ?」
−小さなものたちは口々にこう語る

「大型ショッピングモール VS 小さな商店街」
この戦いの勝敗は、すでに決したかのようだ。

だが・・・・・・・もう一度だけ、小さなものが大きなものに立ち向かおうとするとき、
「有力な武器」はたしかに存在する。


これは本書なぜ小さなコスメ店が大型ドラッグストアに逆襲できたのか?の冒頭に書かれている言葉である。

本書は物語を用いながら「小さなお店が大手に逆襲するための戦略」が書かれている本である。

それにしても本書は実に面白い!

本書の面白さを概して言うと2つある。

面白さの1つは、「大手でしか使えない」と思われているマーケティング理論を「小さなお店でも活用できる」ことを物語とマッチした形で示していることである。

本書で使われたマーケティング理論は以下の5つである。

@ランチェスター戦略
Aビッグデータ戦略
Bソーシャルメディア戦略
Cプライス戦略
Dブランディング戦略


これらの戦略について、教科書的に示すことは簡単だが、物語の中でとなると以外と難しい。ストーリーとマッチした形で示さないと不自然さが残るからだ。だが、本書では見事にストーリーとマッチさせた形で戦略の活用の仕方を示している。

例えば「O2O戦略」は一般的に「TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアでの発信を通じて、ネットユーザーをリアル店舗に誘導する戦略」として使われる。O2Oを活用するときキーとなるのがフォロワーの数である。フォロワーの数が多ければリーチの数も多くなる。知名度のある大手は比較的簡単にフォロワーを集めることができるが知名度の低い小さなお店はそうはいかない。フォロワーを集めるのも一苦労だ。そこで小雪は、糸川の人たちがスマホを持っていてもうまく活用できていないことに着目して「スマホ入門教室」を開催する。そして、「スマホ入門教室」に集まった人たちにフォロワーとなってもらい、O2Oの土壌を耕す作戦に出た。O2Oの前にオフラインを1つ前に置いた、いわゆる「O2O2O戦略」である。リアルで「核となる顧客」を作り、ソーシャルメディアを通じて「核となる顧客」に情報を発信し、拡散してもらう。その拡散を通じてリアル店舗に顧客を引き込む戦略である。「核となる顧客」を持つ小さなお店にとっては有効な戦略である。

「O2O戦略」を例にとって本書で書かれている戦略を紹介したが、このように物語とマッチさせた形で示されると「ああ、なるほど!」となる。そして、読んでいる側としては「次に小雪はどのようにお店を再生させていくのだろう?」と興味を引くのだ!

もうひとつの面白さは、本書は「小さなお店と商店街の再生物語」ではあるが、その一方で「主人公・有村小雪自身の再生物語」でもあり、有村小雪自身が再生を果たしていく過程に引き込まれてしまうという点である。

「負け犬」のごとく故郷に戻った主人公の有村小雪は、戻った当初はどこか「自分の居場所は本当にここにあるのだろうか?」と半信半疑であった。だが、悪戦苦闘しながらも壁を一歩一歩越えながら母のお店を「核となる顧客」である女子高生たちと一緒にお店を再生させていく中で、徐々に自信を取り戻していく。そして、夏祭りを復活させ、「糸川小町商店街」として再生させたとき、自分の気持ちと居場所を発見する。有村小雪を通じて物語を読むと、つい感情移入してしまうのだ。

そんな面白さが盛り込まれた本書で、一貫して訴えかけているテーマがある。それは「お店の核となる顧客は誰か?そして、核となる顧客に何を提供するのか?」という点である。特に「核となる顧客は誰か?」は重要なテーマである。なぜなら、先に書いた@〜Dの戦略は、「核となる顧客は誰か?」が明確でないと有効に機能しない戦略だからだ。逆に「核となる顧客は誰か?」が明確になったとき、大手への逆襲のキッカケを得ることができる。そう、有村小雪が「核となる顧客」の中でもキーパーソンとなる女子高生・上杉さくらと出会いが逆襲のキッカケとなったように......

それにしても物語を楽しみながらマーケティングを学べる本はそうはない。本書に登場している「スマホ入門教室」は実例を用いているので、ケーススタディとしても最適な本だと思う!


【本書のポイント】


■勝てないくらい敵が強大なら、ルールを変えてしまえ

「有村、ランチェスターの法則って覚えているか?」
「あ、香川選手の、マンチェスター・ユナイテッドがいかにファンを大事に・・・・・・」
「覚えているかっていうことでいいな?」
かぶせるように、中沢は言う。
 はい、と素直に頷く。
「もともとは戦争で使われた理論で、軍隊の総合的な戦闘力と消耗の比率に関する法則だったんだが、ビジネスも結局皮を剥いでみると、戦争と変わりないんで、これがとくにマーケティング戦略を立案するときに使われるようになった。そのなかで最も有名な法則がこれだ」

衝突による損害は兵力数の2乗に比例する。

(中略)
「でも、そしたら、絶対に大手には勝てないってことじゃないですか!」
 そうなると、商店街がバイパス沿いの大手を打ち破るのなんて不可能だ。「カントリーライズ」なんて、絵に書いた餅じゃないか。

 わかってないな、と中沢は不敵に笑った。
「ランチェスターの本質は、そこにあるんじゃない。この法則を裏返したところに本当の価値がある」
「法則を、裏返す?」
 頭がこんがらがってきた。
「別に、相手が圧倒的に優位になる戦場で戦う必要はないってことだよ。たとえば、値引き競争なら、大手が得意とするところだ。この戦場で戦おうとしても、到底勝ち目はない。それはたとえば、見晴らしのいい大平原で軍隊を衝突させるようなもので、そんなことをしたら、中小の店などこっぱ微塵に撃破されるに決まっている。そうではなく・・・・・・」
自分が知っている狭い路地に誘い込め、ってことですね」
 その通り、と中沢は頷く。
「自分の得意な分野で、自分のルールで戦えば、勝負はわからなくなる」
(本書より P79〜P83)



■母だけが知っている「ビッグデータ」があった

「これだよ、これがこの店の中枢だったんだよ」
 中沢も、読むなり、そう言った。
 これは日記のかたちをした、顧客台帳だった。
 しかも、5年日記を使っていたので、気候によって変化する肌の状態や、メイクの仕方も過去の記録を見れば、対応がわかるようになっていた。たとえば、ジューン・ブライドの6月には、結婚式でのメイク方法が、さまざま書き込まれていた。しかも、肌の質感や色、天候など、いろいろなケースがあるのだが、それにどう対応したかも詳しく書いてあったので、 顧客台帳としてだけでなく、データベースとしての役割も果たしていた。
「これはある意味、ビッグデータだな」と、呟くように言った。
(中略)
「この日記は、ビッグデータの一部ではあるんだけれども、きっとこのデータを100%扱えるのは、有村のお母さんだけだ。 お母さんの指先だけがわかっていると言っていいかもしれない」
 だとすれば、とここで懸念が生じた。
「この日記にある膨大なデータは、私が持っていても無意味、ということですか?」
「そうじゃない。ここにあるデータは、この業界にとっても宝だ。このデータを元に君だけのビッグデータを構築 していけばいいんだよ。それはこの道のプロフェッショナルになる過程にどうしても必要なことだ」
「この道のプロフェッショナルになる」
 言葉を繰り返し、自分自身に問いかけてみる。
 本当に、私に母の代わりができるのだろうか。私はこれまで甘く見ていたが、母は、やっぱりこの道のプロフェッショナルだったのだ。
(本書より P104〜P108)



■価格の「比較対象」を間違ってはいけない

 たしかにビジネスは戦争だ、という中沢の考えはわからなくもない。けれども、弱い女子高校生たちの犠牲の下にしかビジネスが成り立たないのだとすれば、私はそんな商売はしたくない。
 いいか、有村、と中沢は商品のなかから一流ブランドの新製品「オーパス」を手にとって言った。
「たとえば、これは主力商品として大手メーカーが開発した商品だ。この商品について説明してみろ」
「100円コスメと違って、上質な原料を使った肌にやさしい化粧品です。普通のファンデーションなら、皮膚が呼吸しづらく、一日中つけていると肌がダメージを受けますが、この商品は肌を美しく見せるだけでなく、保湿効果もあって、傷んだ肌を修復させる作用もあります・・・・・・」
 そこまで言って、私はあることに気づき、はっとした。
「それが、高いって?」
 私は首を横に振っていた。決して高くはない。ブランド・メーカーの最新作ということもあって実際に自分でも使っているが、原料や効果から考えても、定価で買ってもむしろ割安だと思っている。
 中沢は頷き、続けた。
「有村、君は比較の対象を間違えているんだよ。100円ショップで売っているコスメとブランド・メーカーが威信をかけてつくったものは、同じカテゴリーのものですらない。100年以上の商品開発で培った技術と蓄積されたデータは伊達じゃない。それを同じ土俵で比べることほどナンセンスなことはない。君が売っているのは安いコスメではなくて、ブランド・コスメだ。そのことにまずは誇りを持ったほうがいい」
 ええ、と私は頷く。
「自分で言っていて気がついたんですが、実際、100円コスメを使っている彼女たちの肌はボロボロに傷んでいて、そんな彼女たちこそ、『オーパス』を使うべきなんです。先入観から、お金に余裕がある主婦層がターゲットだと思い込んでいましたが、若くて敏感な肌を持っている彼女たちこそが、使うべき商品ですね」
(中略)
 安売りで売り上げをとろうとしても、無料メイクで集客だけしてもだめなのだ。しっかりとお客様が何を求めているのかを考え、満足度を向上させれば、着実に売り上げにつながるものなのだ。
(本書より P128〜P136)



■大手のO2O、小さな店のO2O戦略

「新しいO2Oのやり方、わかったような気がします」
「ほう」
「ヴァーチャルからリアルにお客様を引き込むのではなく、リアルのお客様をまずは耕し、そこから広めるための種を蒔き、ソーシャルメディアで拡散させるんです」
 まとめると、こういうことになる。

@リアルのお客様を集客する。特にフリーミアム戦略が効果的
Aフリーミアム戦略で集客したお客様がリピートするための種を蒔く
Bお客様の自発的な拡散を促すためのソーシャルメディアを活用する

(中略)
「そうだな。いままでのO2O戦略は、これまで店を知らなかった人を、インターネットを使ってリアルの店舗に引き込むことが主眼となっていたが、この戦略は大手に有利だ。より多くの対象にリーチするにはそれ相応の費用と手間がかかるからな。けれども、小さな店がとるべき戦略はこれとはちょっと違う。まずは自分が持っている“場”の可能性を最大限に引き出し、常連となってくれる“核”を形成するのが最優先だ。そして、その核となる顧客の満足度を引き上げることによって、自発的な拡散を促し、結果的にいままでこの店のことを知らなかった顧客をソーシャルメディアの力でリアル店舗に引き込む。小さな店の戦略のほうが、ひと手間かかるということだ。つまり、こういうことになるかな」
 そう言って中沢はメモに書いた。
 なるほど、と私は頷く。
「オフラインからオンラインに誘導して、そこで拡散させて、またそれをオフラインに呼び込む。いわば、O2O戦略よりひと手間かかるO2O2O戦略ですね。そして、これを続けることによって、来店客数は増えて、それに比例して売り上げも伸びていく、ということですね」
「そういうことだ。新しい顧客が増えて、そして既存の高校生たちもしっかり押さえられれば、売り上げも安定してくるだろう」
(本書より P174〜P176)



■小さな街のブランディング戦略

 商店街のシャッターが下ろされる割合が増えているのは、地方に起きていることではありません。東京でも、少し下町のほうに行くと、シャッター商店街を見つけることができます。
 時代の趨勢、適者生存、自然淘汰と言ってしまえば、なるほどそうじゃと思ってしまいがちですが、本当にそうでしょうか。
 自治体や商工会が協力して、商店街への新規参入を誘う施策をとっている街も多いのですが、そのほとんどはテナント料補助などの応急手当であって、抜本的な解決に至っていないように思えます。問題なのは、個々のシャッターではなく、その商店街、ひいては街全体なのではないでしょうか。
 小雪は自分の店だけではなく、結果的に「糸川銀座商店街」を「糸川小町商店街」へと蘇らせました。商店街を復活させるには、このようにその街と親和性の高いストーリーの掘り起こしが重要になってきます。
 小雪は「糸川小町」というストーリーを発掘し、「美人になれる商店街」として糸川の街自体をブランディング(ブランド化)しましたが、それぞれの街には必ず、何かしらの「ストーリー」が眠っているはずです。地酒の街であったり、地織が有名だったり、何か特産物があったり、野鳥が飛来したり。その「ストーリー」の魅力を最大限に高めることができれば、「ストーリー」は街を救う「ブランド」に転化します。
(本書より P300〜P303)



【関連書籍】



なぜ小さなコスメ店が大型ドラッグストアに逆襲できたのか?

1)本書の内容
 
 Prologue 負け犬女子・有村小雪、故郷に帰る
 Project Revenge01 私がシャッター商店街を立て直す
 Project Revenge02 君のよく知る路地で戦え
 Project Revenge03 シャッターが下りていない店には秘密がある
 Project Revenge04 「彼女たち」はどこへ消えたのか?
 Project Revenge05 機械オンチにウェブで売る!?
 Project Revenge06 「美人の街」で顧客を耕せ
 Project Revenge07 大型船の入れない「青い海」はどこだ?
 Project Revenge08 決戦の夏祭り
 Project Revenge09 そこでしか得られない体験を提供する
 Project Revenge10 これが、私なりの逆襲だった
 Epilogue お母さんが目を開けるとき
 Making of Project Revenge 物語で使われた5つのマーケティング理論

2)本書から学んだこと
 ・小さなお店の「逆襲のための武器」は存在する!
 ・重要なのは「核となる顧客は誰か」を明確にすること!
 ・「核となる顧客は誰か」を明確にすることで戦略は有効に機能する!



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