アルフレッド・アドラー。フロント、ユングと並び「心理学の三大巨頭」の一人であり、世界的名著『人を動かす 新装版』の著者であるD・カーネギーや『7つの習慣―成功には原則があった!』の著者であるフランクリン・コヴィーに大きな影響を与えた人物として世界的に知られているらしい。「らしい」と書いたのは、本書『嫌われる勇気』を読むまで、私はアルフレッド・アドラーを全く聞いたことがなかったからだ。
本書『嫌われる勇気』には、アルフレッド・アドラーの思想をもとに、「どうしたら幸せになれるか?」について書かれている。その考え方は、「縦社会」「村社会」で生きている日本人にとっては衝撃を受ける思想のように思う。通常の本のように文章を羅列して書いてもしアドラーの思想を理解するのは恐らく難しいかもしれない。そのため、読者がアドラーの思想を理解しやすくするための工夫として、本書は「哲人と青年の対談」よいう形で展開している。青年は、言うまでもなくアドラーの思想を知らない我々読者である。
本書のポイントとなる論旨をピックアップすると、以下のようになる。
・過去の「原因」ではなく、今の「目的」を考える
・人間の悩みは、全て人間関係の悩みである
・他者の課題には介入せず、自分の課題には誰ひとりとして介入させない(課題の分離)
・自分の主観によって「わたしは他者に貢献できている」と思えること(横の関係)
・「いま、ここ」を生きる
このように書くと、いたって自己啓発書で「ごく一般的に言われている内容」のように思うかもしれない。
では、本書の次の文章を読んだとき、どのように感じるだろうか?
ほめるという行為には「能力のある人が、能力のない人に下す評価」という側面が含まれています。(本書 P197より)
劣等感とは、縦の関係の中から生じる意識です。(本書 P199より)
ほめることの否定、これを聞いたとき驚いた方も多いのではないだろうか?日本人は褒める/褒められることを良しとしてきた。また、「評価する/評価される」ということにおいては常に我々の日々の生活の中で意識してきていることである。それを否定するということは多くの日本人にとって衝撃を受けるであろう。だが、これには続きがある。アドラーの思想では「縦の関係」を否定している。言い方を変えると「評価の否定」である。そのため、このようにも述べている。
もしあなたが異を唱えることによって崩れてしまう程度の関係なら、そんな関係など最初から結ぶ必要などない。こちらから捨ててしまってかまわない。関係が壊れることだけを怖れて生きるのは、他者のために生きる、不自由な生き方です。(本書 P194より)
その一方で、アドラーの思想は「他者への貢献」を重視する。そのため、褒め言葉である「ありがとう」という言葉の捉え方もアドラーの思想では変わってくる。
ほめられるということは、他者からの「よい」と評価を受けているわけです。そして、その行為が「よい」のか「悪い」のかを決めるのは、他者の物差しです。もしほめてもらうことを望むのなら、他者の物差しに合わせ、自らの自由にブレーキをかけるしかありません。一方、「ありがとう」は評価ではなく、もっと純粋な感謝の言葉です。人は感謝の言葉を聞いたとき、自らが他者に貢献できたことを知ります。(本書 P205より)
つまり「ありがとう」という言葉を「評価」の言葉ではなく「貢献」の言葉と捉える。その根源には「他者の評価で生きるのではなく、たとえ他者から嫌われようとも他者に貢献するという”主体的な生き方”が出来れば道に迷うことはない」という考え方がある。そしてそれは、「わたしが変われば、世界が変わる。わたし以外の誰も世界を変えてくれない」(本書より P281)という考え方につながっていく。
我々の多くが「他者の評価」を気にしなが日々を過ごしていると思う。その一方で、我々の多くが本書のキーワードとなっている「主体的な生き方」を望んでいる。そんな我々に対し、本書の哲人と青年のやり取りにおいて「主体的な生き方とは何か?」に気づくためのヒントが書かれている。
「他者に嫌われようとも”他者への貢献”という星を掲げて主体的に生きる」、このような考え方を知ったとき、人生をもっと気楽に生きることができるのではなかろうか?そんなキッカケを与えてくれる本である。
【本書のポイント】
■すべての悩みは「対人関係の悩み」である
哲人 孤独を感じるのは、あなたひとりだからではありません。あなたを取り巻く他者、社会、共同体があり、そこから疎外されていると実感するからこそ、孤独なのです。われわれは孤独を感じるのにも、他者を必要とします。すなわち人は、社会的な文脈においてのみ、「個人」になるのです。
青年 ほんとうにひとりなら、つまり宇宙のなかにひとりで存在していれば「個人」でもないし孤独を感じない?
哲人 おそらくは、孤独という概念すら出てこないでしょう。言葉も必要ありませんし、論理も、コモンセンス(共通感覚)も必要なくなります。ですが、そんなことはありえません。たとえ無人島に暮らしていたとしても、遠い海の向こうにいる「誰か」を考える。ひとりきりの夜であっても、誰かの寝息に耳を澄ます。どこかに誰かがいるかぎり、孤独は襲ってくるはずです。
青年 しかしですよ、先ほどの言葉は、言い換えるなら「宇宙のなかにただひとりで生きることができれば、悩みはなくなる」となるわけですよね?
哲人 理屈上ではそうなります。なにしろアドラーは「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」とまで断言しているのですから。
青年 いま、なんとおっしゃいました!?
(本書より P70〜P71)
■「課題の分離」とはなにか
哲人 勉強することは子どもの課題です。そこに対して親が「勉強しなさい」と命じるのは、他者の課題に対して、いわば土足で踏み込むような行為です。これでは衝突を避けることはできないでしょう。われわれは「これは誰の課題なのか?」という視点から、自分の課題と他者の課題を分離していく必要があるのです。
青年 分離して、どうするのです?
哲人 他者の課題には踏み込まない。それだけでs。
青年 ・・・・・・それだけ、ですか?
哲人 およそあらゆる対人関係のトラブルは、他者の課題に土足で踏み込むこと−あるいは自分の課題に土足で踏み込まれること−によって引き起こされます。課題の分離ができるだけで、対人関係は激変するでしょう。
(本書より P140〜P141)
■対人関係のゴールは「共同体感覚」
青年 では伺います。ここはシンプルに、結論だけお答えください。先生は、課題の分離は対人関係の出発点だとおっしゃいました。じゃあ、対人関係の「ゴール」はどこにあるのです?
哲人 結論だけを答えよというなら、「共同体感覚」です。
青年 ・・・・・・共同体感覚?
哲人 ええ。これはアドラー心理学の鍵概念であり、その評価についても議論の分かれるところでもあります。事実、アドラーが共同体感覚の概念を提唱したとき、多くの人々が彼のもとを去っていきました。
(中略)
哲人 そして共同体感覚とは、幸福なる対人関係のあり方を考える、もっとも重要な指標なのです。
青年 じっくり聞かせていただきましょう。
哲人 共同体感覚のことを英語では「social interest」といいます。つまり、「社会への関心」ですね。そこで質問ですが、社会学が語るところの社会の最小単位は何だかご存じですか?
青年 社会の最小単位?さあ、家族でしょうか。
哲人 いえ、「わたしとあなた」です。ふたりの人間がいたら、そこに社会が生まれ、共同体が生まれる。アドラーの共同体感覚を理解するには、まずは「わたしとあなた」を起点にするといいでしょう。
青年 そこを起点にどうするのです?
哲人 自己への執着(self interest)を、他者への関心(social interest)に切り替えていくのです。
青年 自己への執着?他者への関心?なんの話ですかすれは?
(本書より P178〜P181)
■人生最大の嘘
哲人 目標など、なくていいのです。「いま、ここ」を真剣に生きること、それ自体がダンスなのです。深刻になってはいけません。真剣であることと、深刻であることを取りちがえないでください。
青年 真剣だけど、深刻ではない。
哲人 ええ、人生はいつもシンプルであり、深刻になるようなものではない。それぞれの刹那を真剣に生きていれは、深刻になる必要などない。
そしてもうひとつ覚えておいてください。エネルゲイア的な視点に立ったとき、人生はつねに完結しているおです。
青年 完結している?
(中略)
哲人 そのとおりです。ここまでわたしは、何度となく人生の嘘という言葉を使ってきました。そして最後に、人生における最大の嘘とはなにかをお話しましょう。
青年 ぜひ教えてください。
哲人 人生における最大の嘘、それは「いま、ここ」を生きないことです。過去を見て、未来を見て、人生全体にうすらぼんやりとした光を当てて、なにか見えたつもりになることです。あなたはこれまで、「いま、ここ」から目を背け、ありもしない過去と未来ばかりに光を当ててこられた。自分の人生に、かけがえのない刹那に、大いなる嘘をついてこられた。
青年 ・・・・・・ああ!
哲人 さあ、人生の嘘を振り払って、怖れることなく「いま、ここ」に強烈なスポットライトを当てなさい。あなたには、それができます。
青年 わたしに、それができますか?人生の嘘に頼らず、この刹那を真剣に生き切る”勇気”が、このわたしにあると思われますか?
哲人 過去も未来も存在しないのですから、いまの話をしましょう。決めるのは昨日でも明日でもありません。「いま、ここ」です。
(本書より P274〜P276)
【関連書籍】
嫌われる勇気 1)本書の内容 第1夜 トラウマを否定せよ 第2夜 すべての悩みは対人関係 第3夜 他者の課題を切り捨てる 第4夜 世界の中心はどこにあるか 第5夜 「いま、ここ」を真剣に生きる 2)本書から学んだこと ・「課題の分離」が重要! ・「共同体感覚」を持つことが必要! ・「他者貢献」を意識し、主体的に生きる! |
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タグ:自己啓発