顧客視点を取り入れた再生策の実現が商店街再生の鍵!『商店街再生の罠』(久繁哲之介著): ビジネス書のエッセンス(ビジネス書 書評ブログ)

2013年08月07日

顧客視点を取り入れた再生策の実現が商店街再生の鍵!『商店街再生の罠』(久繁哲之介著)



大都会の一部の商店街を除くと“シャッター商店街”と化しているところが多い。とくに地方都市ではその傾向が顕著である。地方自治体も「客足が戻るよう何とかしなければならない」と街の整備などいろいろな施策を打つが、客足は戻ってこない.....

「シャッター商店街をつくり出したのは大型店に客が奪われたからだ」とニュースで報じられている影響もあり、その論調が主流を占めている。しかし、その論調に対して「大型店に客を奪われた論は幻想である」と主張しているのが本書商店街再生の罠:売りたいモノから、顧客がしたいコトへ (ちくま新書)である。

本書は大きく3つの構成で書かれている。

1つめは「商店街再生の取組に対する検証」である。

一口に「商店街」といっても、それは「集客したい顧客」によって、そして「アピールポイント」によって異なってくる。本書では先に記載した観点から、商店街を以下に分類して検証を行うとともに問題点を提起している。

@テーマパーク商店街
一見の観光客を狙う
・レトロ商店街
・キャラクター商店街
・B級グルメ商店街
A地域一番商店街
地元のリピート需要を狙う

2つめは「公務員、そして商店主の取組や意欲に対する問題点」である。本書を読んで、著者が最も主張したい箇所がここであると推察する。本書の「はじめに」には本書の狙いが以下のように書かれている。

 商店街が衰退する本質は「公務員など商店街支援者と商店主の多くに、意欲と能力が欠けている」ことにあります。自分たちの能力と意欲の低さを隠蔽するため、大型店を悪い強者に仕立てあげて「商店街は大型店に顧客を奪われた可哀想な弱者だから、救済すべき」という幻想を生み出したのです。
(中略)
 本書は、商店街が衰退する最大の理由は「公務員と商店主の多くに、意欲と能力が欠けている」ことにある真実を明らかにして、商店街の再生は利用者が必要と願う商店街に限定して「再生策は利用者が創る」理念と方法を提案します。
(本書より P11〜P12)


「公務員と商店主の多くに、意欲と能力が欠けている」とはかなり厳しい言葉ではあるが、著者の講演会等でのやり取り、そして公務員や商店主の取組を見てそのように判断したのだと推察される。この点については、“公務員が地元の商店街を利用しないで再生策を作っている”、または“著者が提案した再生策に対して「そんな面倒なこと、できないよ」と言って行動を起こさない商店主”など、著者が体験、あるいは現場で観察した結果を事例として提示している。そして、これらの事例を用いながら「何が問題なのか?」を提起している。

3つめは「再生策は利用者が創る理念と事例」である。ここでは「シェア」「地域経済循環率の向上」「地域コミュニティ」をキーワードに、3人の起業家の取組を紹介している。

本書を通じて一貫して問題点として提起していることは「再生策を作る公務員、当事者である商店主の多くは“顧客目線に立って”物事を進めていない、あるは顧客目線が足りない」ということだ。それについては本書に登場する事例に限らず、多くの人が感じてることだと思う。

例えば、私の出身地の駅前商店街を例にとると、市が公共事業で商店街を整備した。商店街は見違えるようにきれいになった。だが、顧客は商店街に戻ってはこない。地元の人は相変わらず郊外にあるショッピングモールに買い物に行く。その理由はせっかく商店街を整備しても、肝心のお店に魅力がないからだ。

商店街の魅力があるかどうかは皮膚感覚で”感じるもの”だと思う。魅力ある商店街は、その場にいると「その場にいたい」と”感じるもの”であり、魅力のない商店街は「居心地が悪い」と”感じるもの”である。特に商店街の主要顧客である若者、そして女性は、そういった感覚には特に敏感である。だが、残念なことに、再生策を作る自治体や、それを支援する商工会議所などの支援組織はそういった”皮膚感覚”がないまま、似たような案を立案している。結局、”金太郎アメ”のような街がいくつも造られる。昨今の”ゆるキャラブーム”も似たようなものを感じる。著者は「一番大事な”皮膚感覚”で感じることをしないまま、街の再生策を立案・実行したところで上手くいくはずがない」と言いたいのだ。

その一方で、本書に登場する商店主には面白いお店もある。特に面白いと思ったのが、ゲゲゲの鬼太郎で有名な鳥取県境港市にある「靴とはきもの くぎたに」である。店の前にある”鬼太郎が履く一本歯の下駄”とポスターのキャッチコピーを見ると、誰もが「おもしろい!」と言うであろう。

※ポスターをご覧になりたい方は、こちらのリンクを参照してください。
http://www.sakaiminato.net/site2/page/point/shopping/others/kugitani/

本書に登場する「靴とはきもの くぎたに」のような魅力あるお店、そして女性や若者が創る魅力あるお店が増えたとき、商店街の再生、ひいては地域再生につながっていくものと本書を読みながら感じたのである。


【本書のポイント】


■地域密着が、商店街再生の鍵

 商店街の再生政策は本来、顧客が商店主を含む地域住民と「ゆるやかに繋がる」場所と機会を創りだす取組こそ注力すべきですが、あまり実践されていません。なぜでしょうか?
 商店街支援者は中高年男性の現役世代が多く、リタイア世代の高齢者や主婦の気持ちやライフスタイルを理解する意欲が欠けるからです。
 現役オヤジ世代の多くは多忙を理由に「日常の買物をしない、すなわち商店街を利用しない」し、職場等に仲間がいるから「話し相手が居なくて困る事もない」のでしょう。
 一方、リタイア世代は何か理由をつくって外出しないと「話し相手が居なくて困る」人が少なくありません。理由として最適な行動が日常の買物であり、商店街はその最適な場所と位置づけると、商店街再生の方向性が見えてきます。
 このように、顧客の気持ちやライフスタイルを理解する意欲がないまま、現役オヤジ世代だけで商店街活性化を計画すると、えてしてレトロ化など非日常的な施策にばかり目を奪われる罠に陥ってしまいます。
 ここに「再生策は利用者が創る」という本書の主張を見出だすことができます。
(本書より P31〜P32)



■補助金づけが商店主の行政依存を誘発

 私の実家は数年前まで、広島駅前の商店街で飲食店を営んでいました。当時の話ですが、自治体から「こんなモデル事業を始めるから使ってくれませんか?事業費は、ほとんど補助金だから、お金の心配は大丈夫です」等と、よく「補助事業の営業」を受けました。
 自治体が補助事業の営業を続けると、商いの感覚が麻痺する商店主が出てきます。すなわち「自分の商いなのに、自治体の都合のために、やってやる」感覚に変わっていくのです。
 感覚が麻痺した商店主は「商店街の売上や賑わいが悪くなれば、自治体が助けてくれる(補助金をくれる)」と言って、行政へ依存するようになります。
 今、商店街の補助金依存は全国に蔓延しています。商店街は補助金を投入しても、なかなか活性化しません。むしろ、補助金への依存が強まるほど、衰退する商店街が増えています。商店街が衰退した一番の理由は、大型店やインターネット通販などライバルとの差別化などを怠る商店主の努力不足にあります。
 しかし、商店主の努力不足を「自治体の(予算を獲得したい)都合」が加速させたのも事実です。端的に言えば、商店街の衰退は、自治体の補助金ばらまき施策が引き起こした産物なのです。
 自治体や御用学者は「商店街は大型店に客を奪われた可哀想な存在だから、救済すべき」と言いますが、本音は「役所の予算を獲得したい場合、役所の実績づくり」にあります。
(中略)
 補助金とは本来、衰退した産業が「ライバルとの差別化」(競争力の強化)を目的に、期間を限定して支給することで、自立を促すものです。
 商店街と農業の活性化を真剣に考えるならば、補助金ばらまき施策はやめて、自立を促す施策への転換を図る提案が出て然るべきです。商店街の場合、3つの大きな効果が期待できます。

@商店街は行政に依存しなくなり「自立する、自分で考える」ようにかわる。
A自治体の仕事が「予算の審査・分配」から「利用者と商店主の双方が豊かになる提案」に変わる。
B自治体の予算むだ遣いが大幅に減る。


 本書は、@とAの必要性を示すことで、Bの実現も目指しています。
(本書より P51〜P53)



■「理論の美しさ」でなく「自ら行動する」ことが重要

 この市役所が策定した商店街活性化計画書では「誰もが訪れたくなる○○な商店街」というスローガンを掲げています。○の部分には、歯が浮くような美しい言葉が入ります。
 このスローガンは「誰もが否定できない、非常に美しい理論」です。
 このように、公務員が作る計画書は「誰もが否定できない、非常に美しい理論」で作文されていますが「公務員自身が理論の通りに、行動する意欲が全くない」のです。公務員が机上で作成した理論的には美しい計画書が、全く実現しない理由がここにあります。
 この例(※公務員が自ら商店街を利用しない)で、商店街活性化が実現しない理由を整理しましょう。

@公務員が「自分は行く意欲のない商店街」を「誰もが訪れたい商店街」という詭弁→自分が利用したくないものを、市民が利用するはずがない。
A公務員が「自分は行っていない、知らない商店街」の活性化施策を立案する弊害→だから、成功事例の表面的な模倣しか頭に浮かばない。


(中略)
 商店街の再生を実現するには、商店街が「安さ、便利さ」とは違う魅力的な価値基準を、顧客と協働しながら創出することが必要です。公務員が地域再生および商店街再生を少しでも考えているならば、その協働に積極的に関わる当事者意識が強く求められます。
 にもかかわらず、東京から招いた講師との懇親会でさえ、職員食堂で「安く、便利に」済ませる公務員の行動は「モラル欠如」と言わざるをえません。
(本書より P131〜P133)

※は私が追記


■試行錯誤を繰り返して、取組を進化させる

 商店街や自治体のように、古い考えに固執する中高年男性が多い組織は、少しでも努力を要求する新しい提案に、反対と賛成の割合は概ね「80対20」になります。民主主義(多数決)の法則を採用すれば、新しい提案は必ず否決される運命にあります。
 自治体のように口先では「改革が必要」と言いつつ、改革を回避できる幸せな状況にあれば、民主主義の法則を採用して、少しでも努力を要求する新しい提案は必ず潰して、ひたすら現状のぬるま湯状態を維持する選択もありえるでしょう。
 しかし、衰退・瀕死の状況にある商店街の意思決定は、民主主義の法則ではなく、パレートの法則を採用して、改革を起こす必要があります。
 衰退した商店街を再生させるには、取組として何をやるかも重要です。しかし、衰退した商店街の組織であるが故に、何をやるにしても最初は、意欲の低い80%の商店主が反対・無関心なことは、火を見るより明らかです。
 意欲が低い80%の商店主も救済する「護送船団方式」支援は、もうやめましょう。
 瀕死の状況にある商店街を本気で再生しようとするならば、意欲の高い20%の商店主が集まった時点で「できる形(小さな形)で取組を始める」べきです。
 小さな形で結果を出して、参加者を増やし、試行錯誤する過程で取組を進化させるのです。だから、最初は「喜んでのできないけど、やってみる」くらいの感覚で良いのです。
 重要なのは「行動に移すこと、試行錯誤を繰り返すこと」です。
(本書より P175〜P176)



■まちを守るために、商店街の「再生策は利用者が創る」

 自治体が補助金を投入する商店街に関しては、不動産オーナーが店舗を「誰に貸すか、貸さないでシャッターを閉じてしまうのか」を自治体が責任をもって管理すべきです。自治体がそれを怠ると、商店街を救済する名目で補助金を使ったのに、まちを破壊する悲しい結果をもたらしています。
 商店街の衰退理由が「商店街を金融商品と考える不動産オーナーの私益追求行為」にあるのに、自治体が更に別の補助金を出し続ける実態は本末転倒と言えます。
 そういう観点から前著『地域再生の罠』では3つの提言の3番目に、次の理念と施策を提唱しています。

まちづくりは土地所有者(不動産オーナー)次第だから、土地の課税率は、用途の公益性に連動させる。自治体の公的支援は、市民の交流を促す公的空間に集中する。

 この提言は『地域再生の罠』刊行3年後の今でも、必要だと確信しています。しかし、顧客の意向を知らない自治体と商店主に任せていたら、商店街は再生しないし、無駄な補助金を垂れ流しし、市民が豊かになれない事実に直面しています。本書はここまで、その事実を描写してきました。
 自治体と商店主に任せる弊害が多い事実を踏まえて本書は、商店街の「再生策は利用者が創る」理念を掲げます。
(本書より P186〜P187)



【関連書籍】



商店街再生の罠:売りたいモノから、顧客がしたいコトへ (ちくま新書)

1)本書の内容
 
 はじめに
 第1章 レトロ商店街の罠
 第2章 キャラクター商店街の罠
 第3章 B級グルメ商店街の罠
 第4章 商店街を利用しない公務員
 第5章 意欲が低い商店主
 第6章 再生戦略@「シェア」で、雇用・起業を創出
 第7章 再生戦略A「地域経済循環率」を高めて、第一次産業と共生
 第8章 再生戦略B趣味を媒体に「地域コミュニティ」を育成
 おわりに

2)本書から学んだこと
 ・地域密着が、商店街再生の鍵!
 ・商店街の再生には顧客視点を取り入れることが必要!
 ・若者、女性の視点が街の再生には必要!



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posted by まなたけ(@manatake_o) at 21:53 | Comment(0) | TrackBack(0) | 経済/ビジネス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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