日本の労働観と自己啓発書との関係を読み解く本!『キャリアポルノは人生の無駄だ』(谷本真由美 @May_Roma 著): ビジネス書のエッセンス(ビジネス書 書評ブログ)

2013年06月23日

日本の労働観と自己啓発書との関係を読み解く本!『キャリアポルノは人生の無駄だ』(谷本真由美 @May_Roma 著)



本書キャリアポルノは人生の無駄だ (朝日新書)を読んでみた。ただ、読んでみると「これって自分のことを言っているんじゃないの?」と身につまされる話がいろいろと登場する内容の本である。

そもそも「キャリアポルノ」というのは何なのか?これは著者である谷本真由美さんの造語である。その語源は「フードポルノ」にある。「フードポルノ」とは「おいしそうな食べ物を観賞することで自分の満足を満たす行為」を指すそうだ。それをもじって「自己啓発書で書かれている成功者が説くノウハウを読むことで意識が高揚し、成功した気分になること」「キャリアポルノ」と著者は定義している。「キャリアポルノ」の語源を知ったとき「痛いところを突いているな!」と思わず思ってしまった......「読んで気分が高揚して満足し、現実が改善された形跡がない」自分は間違いなく「キャリアポルノ依存症」であろう!

前半は例のごとくMay_Roma節で「キャリアポルノの問題点」を指摘しながらをメッタ斬り!している。身につまされる話がいろいろとありながらも面白い!とはいえ、単にメッタ切りしているわけではなく事例に基づき根拠をもって指摘している。これは彼女の他の著書でも同様であるが、本書でもアメリカの心理学者、自己啓発書の著者などの言葉を引用しながら指摘し、彼女の自己啓発書に対する意見を述べている。

とはいえ、本書の伝えたいことは「だからキャリアポルノを読むな!」ということではない。本書は「日本の労働観と自己啓発書との関係」を中心に書きながら、「日本の労働観への警告」を伝えようとしている。

本書の言う日本の労働観を一言で言うと、「多くの人が労働=自己実現と思いこみ、そして”認められたい”という承認欲求が強い」ということだ。そして、日本社会を見ると「”集団から突出しない集団圧力”があるりながらも実は”集団内では常に競争がある競争好きな社会”である」ということだ。その例は数多くある。日本ではニュースを見ると過剰なほど「平等」が唱えられている。だがその一方で、雑誌やテレビでは売上ランキングがやたらと取り上げられている。会社内を見ると「皆がまだ残っているのに早く帰ることは許さない」と無言の圧力で平等意識をあおりながらも、その一方で「自分は早く上司に認められたい」と小さな競争が絶え間なく起こっている。また、学生時代は「画一的で周囲に合わせないといけない」という”同調性”を求めていながらも、働き始めると「あなたの個性は何か?」と”個性”を求められる。このような矛盾した状況は多くの人が感じている状況でもあろう。そして、そのような組織の圧力を感じながら、その一方で「労働=自己実現」という労働観のもとで、あるいは「収入を絶たれないため」に社内での競争に耐えながら激務をこなし、「デスマーチ」を続けていく......

そんな状況から抜け出す道を探るために、あるいは今抱えている自分の不安や恐れをなくそうとするために、もがき、苦しみながら自己啓発書を読む。それは「意識高い系」と呼ばれる人たちも同じであろう。そんな自己啓発書を読む人の心理を言い当てた表現が本書では以下のように書いてある。

 ところが、キャリアポルノを読む人たちは「普通ではない人」の型を知りたがり、読みたがり、真似をしたがります。真似をすれば自分もそのようになれるのではないか、と錯覚を起こしてしまうのです。
(中略)
 家柄や実家がもともとお金持ちであることなど、努力ではどうにもならないことだってあります。しかし、キャリアポルノを読んでいる人たちは「努力でなんとかなるから、真似をすればよい」と思いこんでいるので、努力では越えられない壁に悩み、自分を苦しめるのです。
(本書より P172〜P173)


そんな読者に対し「ちょっと考え方を変えてみよう」と著者は言う。特に最後で「仕事は仕事と割り切れ」と言っている

 人生にはもっとさまざまな楽しみ、悲しみ、喜び、想像性を発揮する場面があり、それらを無視して仕事だけが自分を発揮する場、するのは何とも悲しいことです。仕事は仕事、これは対価をもらうための活動にすぎない、と割り切れば、無理してキャリアポルノを読みあさるむなしさを実感するはずです。
(本書より P224)


確かに仕事だけが「自分を発揮する場」とは限らない。「仕事=自己実現という労働観を一度否定し、もう少し他の事にも目を向けてみては?」というのが著者の本書でのメッセージのように思う。

とまあ、このように本書のレビューを書いてはみたが......個人的には「キャリアポルノ依存症」と言われようが、自分の好きな本を手にとって読み、「高揚感高まる言葉」に対しては素直に「感動した!」という気持ちは表現していきたいと思う。無理に気持ちを押さえこむ必要はない。読んだ本に感動したと言う気持ちは素直な表現なのだから!まあ、著者との距離感だけは意識はするけどね。


【本書のポイント】


■「キャリアポルノ」は「フードポルノ」と同じ

 私が自己啓発書を「キャリアポルノ」と定義した理由は、基本的に自己啓発書が「フードポルノ」と同じだというところに理由があります。
 フードポルノは、食べ物を食べたり健康になることが目的ではなく、食べ物を見ることでストレスを解消したり、自分では作ることができないおいしい食べ物、自分では費用を負担することができない高い食べ物、自分では時間もお金もないので体験することができない外国の珍しくておいしい食べ物を食べたり体験することの代償行為です。代わりに見て楽しむだけなのです。そして、それを見たからといって、自分の生活が豊かになるわけでも、おいしいものが食べられるわけでもありません。おいしいものを食べるには、自分で料理方法を研究したり、実際に作ってみたり、おいしいレストランに行ったりしなければなりません。行動が伴わなければ本当に欲しいものは得られないのです。
(中略)
 自己啓発書も基本的にフードポルノと同じです。自己啓発書で描かれるような成功した人になるには、大変な努力が必要です。書いてあるノウハウを本当に実践するには努力が必要で、身につけるには手間も時間もかかります。読むだけではどうにもならないのです。そして、本当は本に書かれていないこともやらなければ成功者にはなれないのです。
 成功者が説く哲学や人生訓というのは、その人でなければ本当の意味はわかりません。さまざまな体験、苦労、人生、人格、周囲で支えてくれる人があってこそ出てくる言葉なのです。本を読んだだけでそのような哲学を理解できると思ったら大間違いなのです。また、その哲学を語る人は、実は昔大量の本を読んで勉強したり、自分でじっくりと物事を考えているのです。ありふれた自己啓発書を読むだけでは、そういう努力や、その人のひらめき、というものを得ることは絶対にできないわけです。
(本書より P51〜P53)



■自己啓発にすがる日本の20〜30代の若者たち

 最近日本で売れている自己啓発書は、特に大学生や20〜30代の若い会社員に的を絞っています。従来、自己啓発書は中堅サラリーマンに的を絞ったものが少なくなかったのですが、読者層が低年齢化しているのです。例えば最近日本で売れている自己啓発書には、題名に「20代」を入れるなど、学生や20〜30代の若い会社員がターゲットであることが明確です。
(中略)
 しかし、これらの本の多くは、元大手企業だったり、高学歴で不況のなかでも正社員で応募して条件のよい仕事を得られたような人、もしくは、たぐいまれな営業センスや技術力があり、フリーになったとしても起業したとしてもうまくいくような「特殊な人々」です。そのような人々が、従来の自己啓発書と同じように、書籍の中で「あなたはできる」「やってみましょう」と漠然とした「メッセージ」を語りかけるのが定番パターンです。
 消費者向けマーケティングと法人向けマーケティングのやりかたの違い、海外法人の設立方法、情報システムの投資コストの試算方法、家電製品のパーツ製造ラインにおいて欠陥品の比率を0.001%以下にする方法など、読者が毎日体験するであろう課題を解決するような「仕事に本当に役にたちそうなこと」は書いてありません。
(中略)
 若者はこのような自己啓発書になぜ惹かれるのでしょうか?それは、読者の心の中に「不安」と「恐れ」があるからです。その「不安」と「恐れ」とは、自分たちの親の世代は享受してきた職業的安定や経済的な豊かさを、自分たちは享受することができない、という「経済的な不安と恐れ」です。
(本書より P73〜P76)



■型を求めるから苦しむ日本人

 働くことで自己実現や自己承認欲求を満たそうとする人が少なくありませんが、この人たちをさらに苦しめるのは「真似をしなければならない」という「真似っこ原理教」です。「真似っこ原理教」とは、何をするにおいても「成功事例の真似をしなければならない」という「思い込み」のことです。キャリアポルノが売れる理由も、まさに「真似っこ原理教」が蔓延しているためです。「真似っこ原理教」の信者たちが「成功者」としてイメージする人たちは以下のような方々ではないでしょうか?

―外資系企業の管理職であり数ヵ国語を喋ることができる
―年収が2億円である
―外車に乗っていて六本木ヒルズに住んでいる
―一部上場企業に就職できた
―会員300人の学生団体の幹事をやっており起業家サークルにも所属
―20代で起業に成功した
―20代で不労所得があり世界中をノマドとして旅している
―公認会計士試験に20代前半で一発合格した

(中略)
 つまり、日本はますます貧しくなっているのにもかかわらず、「真似っこ原理教」の信者たちは、現実とはかけ離れた「成功者」の「型」を求めているわけです。
(本書より P168〜P170)



■私は私、あなたはあなた、成功者は成功者と自覚する

 キャリアポルノを買ってしまう人は「やめろ」といっても、それが趣味になってしまっているので、やめることができない場合もあります。私はキャリアポルノを買う人を否定はしませんが、読む際にはちょっとした工夫が必要です。
 まず本書で何度も繰り返しているように、著者と自分は違う人間であること、地球上には同じ人は一人もいない、ということを自覚するべきです。
 どの人も受け継いでいる遺伝子は異なり、まったく別の生き物なのです。異なる身体能力、癖、思考回路を持った人が、たとえ同じようなことをしても、同じような結果が出るとは限りません。例えば、これは同じ薬を飲んでも、人によって利き方がまったく異なることがある、という現象や、手術をしても回復のスピードが人によって違う、という現象と同じです。ですから、キャリアポルノに書いていることを繰り返し実行しても、成功者である著者と同じ結果が出せるとは最初から考えるべきではないのです。
(本書より P196〜P197)



■キャリアポルノにはノウハウや努力のすべてが書かれているわけではない

 キャリアポルノはあくまで本です。ある人に起こったことをすべて文書化することは不可能に近いため、その著者の成功した理由がすべて網羅されているわけではありません。
 例えば、その人の暗記するスピード、周囲の人にどんなふうに気を遣っているか、何を食べているか、その人がビジネスを始めた際の外部の環境やタイミング、というものは書かれていないのです。
 書かれていないことの一部は「運」とも呼ばれます。「運」とは、その行動をとった場所であったり、タイミングであったり、出会った人、助けてくれた人のことを指します。誰もが同じ場所や、同じ日時にそこにいるわけではないですし、同じ人に出会って、同じように助けてもらえるわけではないので、著者と同じ行動をとったからといって、同じように成功するわけではないのです。
 ですから、本には、すべては書かれていないのだ、と想像力を働かせることが重要です。その、すべては書かれていないのだ、と想像を働かせることが重要です。その、すべては書かれていないということも、「私」と「あの人」の差を生んでいる要素なのです。特に「運」といったものは自分の努力ではどうにもならないので、諦めるほかないのです。
 それに、そもそも成功している人は、実は裏社会と繋がりがあって成功したとか、宗教団体にバックアップされているとか、夫や妻が大金持ちで資金協力をしたとか、家族が強力なネットワークをもっていたとか、マスコミの有力者の恋人だとか、という「陰の成功要因」があるかもしれないのです。そんなことは本には書きませんので、いくら真似しても無駄なのです。
(本書より P201〜P202)



【関連書籍】



キャリアポルノは人生の無駄だ (朝日新書)

1)本書の内容
 
 第1章 「自己啓発書」は「キャリアポルノ」だ
 第2章 人は何故「キャリアポルノ」を必要とするのか
 第3章 私はどのようにしてMay_Romaになったか
 第4章 “労働”とは何か(働くことだけが「自己実現」ではない
 第5章 人生を楽しむための具体的な方法

2)本書から学んだこと
 ・「キャリアポルノ」に依存する背景には日本社会の特殊性がある!
 ・著者は著者、自分は自分と適度な距離感を保ちながら本を読む!
 ・仕事だけが自己実現の方法ではない!



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posted by まなたけ(@manatake_o) at 13:16 | Comment(0) | TrackBack(1) | 働き方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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