300人を確保せよ!『Tweet & Shout ニュー・インディペンデントの時代が始まる』(津田大介著): ビジネス書のエッセンス(ビジネス書 書評ブログ)

2013年03月06日

300人を確保せよ!『Tweet & Shout ニュー・インディペンデントの時代が始まる』(津田大介著)



TWEET&SHOUT ニューインディペンデントの時代が始まるを読んでみた。

本書は「インターネットと音楽環境の関わり」を紐解きながら、全てのクリエイターに「ニュー・インディベンデントの時代が到来したこと」を示している。

本書を読むと”少し変わった”構成であることに気づく。

本書の本文はアプリメディア「Next From JP」での掲載記事の改訂を加えたもの、伊藤亮一さんとのインタビューなどの記事で構成されている。そしてそこには「インターネットと音楽環境の関わり」を紐解きながら、音楽を作るクリエイターが取り巻く環境が激変していることが書かれている。

本書を読みながらインターネットと音楽の関係を紐解いてみると、かつて巨大産業だった音楽産業は大きく様変わりしたことが分かる。音楽業界の凋落ぶりは著しいものがあるが、本書を読み解くと、それは「IT技術の進展」のみではなく「音楽業界の迷走ぶり」が示されている。

その発端はナップスターの登場であろう。ナップスターはユーザーに対して「いつでも聴きたい音楽を落とすことができる」ことを示した。ナップスターは無料のサービスであったが、それを有料化してユーザーにサービスとして提供したのがiTunes Storeである。MP3が登場した時点でこのようなソフトの登場はある程度予見できたことではある。著者の津田大介さんはレコード業界に対して「時代を見る目がなかったという。あそこで舵取りを間違えなかったら、アップルにここまでキャスティングボードを握られることもなかったでしょう」(本書より P51)と酷評している。

また、CCCD(コピーコントロールCD)の登場が音楽業界の迷走ぶりを象徴する出来事として本書では紹介されている。CCCDはMACで再生できず、また、一般的なCDプレイヤーでの動作も保証されていない。結局、日本は2004年でCCCDから撤退したが、ユーザーとの溝を決定的にした。その後、ユーザーが聴きたい音楽を手に入れる手段はCDからiTunes Storeを中心とした音楽配信サイトに移っていくことになる。

その結果、レコード会社は90年代に誇った隆盛は影もなく、新人アーティストを発掘する余裕すらなくなっている。

一方、インターネット環境はSNSや動画サイトの発達に伴い、自らのメッセージや作品を発信する環境が整いつつある。また、懸案であった”マネタイズ”の問題も、クラウドファンディングや月額定額制プラットフォームの登場により、活動するための資金を以前より調達しやすくなっている。

このように本書の本文にはインタビュー形式で「音楽業界やクリエイターを取り巻く環境の変化」が書かれている。

先に本書の構成は”少し変わっている”と述べたが、著者の主張が最も表された部分が実は本書の「あとがき」なのだ。わずか8ページだが、そこには「クリエイターが創意工夫を持ってインターネットを活用することで既存の仕組みに依存せずに活動できる環境が整っている」こと、そしてそれと同時に「クリエイターたちに真の意味で”独立”する覚悟」を問うている。特に次の文章がそれを端的に表している。

 これからのミュージシャンは、リスナーにじっくり楽しんでもらう作品としての「アルバム」、ファンと直接のコミュニケーション手段である「ライブ」、そして「作りかけの曲や、できたばかりですぐ届けたい曲を届けるといったリスナーとの新しいコミュニケーション手段としての「配信」という3つの軸を立て、それぞれを組み合わせたビジネスにしていくべき−これが「未来型サバイバル音楽論」を執筆した2010年時点の結論だった。
 しかし、そこから時代はさらに進み、現在はその3つに加えて「ブロマガ」のような月額定額課金プラットフォームやkickstarterやCampfireのようなプロジェクト構想をネット上に提示することで製作費や資金調達できるクラウドファンディングサービスが登場している。以前のように、暗中模索しながらお金が付いてくるかわからないネットの海に飛びださなくても良くなったのだ。飛び出すリスクは十分に減っているし、旧態依然とした既存の仕組みに縛り付けられる必要はもうない。そして、レコード会社や出版社という存在は、クリエイターにとって本質的に「ビジネスパートナー」でしかなく、自分たちの面倒を一生みてくれるわけではないことを改めて認識する必要がある。クリエイターたちが真の意味で独立する「覚悟」を持つことが今、求められているのだ。
(本書より P270)


本書の帯には「300人を確保せよ!」と書かれているが、この意図は「毎月500円を支払ってくれるコアなファンを300人確保せよ!500円×300人=15万円毎月収入として入ってくるので活動がしやすくなる」ということである。独立して活動するためには安定的な収入が必要だ。もちろん15万円だけでは大掛かりな活動はできないが、安定的に収入が入るのと入らないのとでは大きな違いがある。また、クラウドファンディングなどで資金調達できる環境が整いつつあることも大きい。

「ニュー・インディベンデントの時代が到来している中、あなたはどうするのか?」という著者からの問いかけをされている気がする本である。


【本書のポイント】


■迷走を続ける巨大音楽業界とは一線を画する、新しい仕組み

 かつて6000億円の市場規模を誇り、現在はその半分以下まで縮小した音楽CD業界。音楽業界におけるメジャーレーベルが急速に存在感を失いつつある今、ネットを利用して従来のメジャーレーベルの方法論とはまったく別の方法論で自活するアーティストがたくさん登場してきている。シンガーソングライターの七尾旅人もその一人だ。
(中略)
 そんな七尾が今年6月に始めたのが「DIY STARS」という音楽配信プラットフォームだ。これは待受FLASH配信やメールマガジン配信、宣伝ページ制作などでアーティストの活動を支援してきた「TUNK(タンク)」との共同開発で作られた配信システム。DIY STARSを利用することで、アーティストの公式ウェブサイトにデジタルファイルの販売機能を組み込むことができるのだ。
 デジタルファイルの販売機能をウェブに付けるサービス自体は昔から存在していたし、アーティストが公式サイトで直接ファンに音楽ファイルを販売する行為自体は何ら目新しいものではない。しかし、この仕組みが画期的なのは、販売したファイルの売り上げから引かれる数字がわずか5.5%程度の決済代行手数料のみというところにある。音楽配信といえば、モバイル向け着うたフルやPC向けのiTunes Storeが有名だが、どちらも決済手数料やコンテンツプロバイダの手数料など様々なコストが差し引かれ、アーティストの手元にはせいぜい20%、多くても50%程度しか残らない。しかし、DIY STARSは約95%という限りなく100%に近い金額がアーティストに還元される。これはデジタル音楽の販売を自らの音楽活動につなげたいアーティストにとって非常に大きな武器だ。現在は「TUNK」が厳選したアーティストだけがこのシステムを利用できる形になっているが、こうしたプラットフォームが一般のアーティストまで解放されることで、アーティストが自立できる環境は大きく整っていくことだろう。長年「音楽業界」の論理に振り回され、インターネットに救われた七尾が、このようなアーティストが自立するためのサービスをプロデュースしたのは、ある種の必然だったのだろう。
先日、筆者と行ったトークイベントで七尾は「『音楽業界』と、現場で奏でられている『音楽』の距離が年々離れていっている」と語っていた。その意味でもDIY STARSは羅針盤を失い続ける「音楽業界」という豪華客船から脱出できるエンジンを搭載した小型ボートなのかもしれない。
 「島根かどこかの名もないアーティストが200円の音楽ファイルを売って、何らのきっかけでブレイクして100万件ダウンロードされれば、ほぼ2億円がアーティストの手元に残るんだよ」
DIY STARSの目指す世界をわかりやすく示した七尾の一言が、印象的だ。
(本書より P188〜P191)



■300人を確保せよ!

 300人を確保すること―日々激変するコンテンツ業界の現場で生き残っていくためのスタート地点はそこにある。
 本書は、インターネットが我々の日常に根付いたここ15年ほどの情報環境の変化が、コンテンツ産業(とりわけ音楽業界)にどのような変化をもたらしたのかを紐解き、クリエイターが既存の仕組みや資本に頼らず、自らプロモーションを行い、生み出した作品をリスナーや読者、視聴者などの消費者に届けるところまで構築することで、自由な創作環境を手に入れられるということを解説した、ある種のノウハウ本だ。
 「自由な創作環境を手に入れる」ということは、多くのしがらみや、他者や資本への依存から解放されるということでもある。ここ5年ほどの期間にソーシャルメディア、スマートフォン、クラウドコンピューティングという現在の情報環境を支える3つの重要な技術が一気に登場・普及したことで、かつての「インディーズ」とは異なる、真にクリエイターが独立して活動できる環境が整った。その状況の変化を意識し、独立して活動しているクリエイターのことを筆者は「ニュー・インディベンデント」と呼びたい。
 冒頭で300人を確保することが大事と、述べたが、これを具体的に言い換えると「毎月500円の収入をもたらしてくれるファンを300人捕まえなさい」ということになる。500円×300人=15万円。毎月ファンが喜ぶコンテンツを提供し続ける対価として月会費を徴収することで、ニュー・インディベンデントの柱が生まれるのだ。
(本書より P263〜P264)



■ファンが直接クリエイターを支える時代

 かつて宮廷貴族がパトロンとなり、音楽家の生活を支えていた時代があった。音楽だけでなく、文芸やジャーナリズムも元々は都市部の富裕層がお金を出すことで市場が形成されていったコンテンツだ。多くのコンテンツは、産業化の成立過程で富裕層のパトロネージュが起点となっている。
 現代は宮廷貴族のようなパトロンがほとんどいなくなった代わりに、レコード会社や出版社がパトロンの役割を務めるようになった。
(中略)
 だが、そのパトロネージュの役割も潤沢な「基金」あってこその話である。音楽や書籍が信じられない速度で売れなくなっている今、レコード会社や出版社に「パトロネージュのハブ」としての役割を期待するのは酷だ。彼らは現状自らが生き残れるかどうかも怪しい状況で商売せざるを得なくなっている。クリエイターは(一部のトップクリエイターでない限り)もはや彼らを依存する対象として頼ることはできない。
 だからこそ、毎月お金を払ってくれるコアなファンをつかみ、彼らと良き関係を築く―ファンクラブや有料メルマガといったビジネスモデルが重要になってくる。
(中略)
 これは、パトロンの担い手がかつての宮廷貴族、レコード会社・出版社からファンに移った―ファンが直接クリエイターを支える時代になった―というシンプルな話である。今、メジャーレコード会社と契約して10万枚を売るのは至難の業だが、質の高い作品を作り、ソーシャルメディアを駆使して共感を呼ぶPRを行って、毎月お金を払ってくれる「300人」の濃い固定ファンをつかむのはそこまで難しい話ではない。厳しいことを言うようだが、300人の心もつかめないようなクリエイターはそもそも「プロ」を目指すべきではない。
 その世界において毎月お金を支払ってくれるリスナーや読者はファンでありつつ、クリエイターと対等な関係を結んだ「一時的なパトロン」であるともいえる。
(本書より P266〜P269)



【関連書籍】



TWEET&SHOUT ニューインディペンデントの時代が始まる

1)本書の内容
 
 Tweet & Shout -ニュー・インディペンデントの時代が始まる
 Extra Interview-ニュー・インディペンデントの時代が始まる
 特別収録1 新・音楽風景
 特別収録2 「アジカン」ゴッチと一緒に考える、3・11後の日本
 特別収録3 これからのためのインターネット年表

2)本書から学んだこと
 ・「ニュー・インディベンデントの時代」がやってきた!
 ・インターネット環境の変化でマネタイズしやすい時代になってきた!
 ・まずは毎月500円支払ってくれる300人を確保せよ!



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posted by まなたけ(@manatake_o) at 00:16 | Comment(0) | TrackBack(0) | IT/Web | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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